【店長佐藤×松本監督】なんでも言い合うふたりの、映画ができるまで

編集スタッフ 栗村

いよいよ公開になった映画『青葉家のテーブル』。

公開当日となる今日は、松本監督と店長佐藤を交えて映画製作の裏話を聞きました。

 

知るともっと楽しい「色の秘密」

ー 松本監督のシャツは映画のテーマカラーと同じ、ミントグリーン色ですね。

松本:
そうなんです。

何を着たらいいのかわからなくて。佐藤さんにどんな格好がいいか聞いたら「おしゃれしてきてください」って。

佐藤:
あはは。それで監督がミントグリーンのシャツを着てくるとおっしゃっていたので、私はネイルをミントグリーンにしてきました。

ー 青葉家のテーブルは、毎回テーマカラーがあるんですよね。それはどうやって決まったのですか。

松本:
ドラマの2話目を作るときに、1話目が黄色っぽかったから、次はターコイズブルーでいきたいって佐藤さんから言われたのがきっかけだった気がします。

佐藤:
そうですね。それでテーマカラーになる色を所々忍ばせて。

実際にお客さまからのお便りで、2話目はピアスもブルーでしたねとか、お弁当包みの色ともあっていましたとか、細かく気づいてくださっていて。よっしゃってなってなりました。

松本:
うれしいですよね

佐藤:
そう。それから3話はバーガンディで4話はグリーンみたいに自然にテーマカラーを決めるようになったんです。

 

監督も知らなかった、美術のこだわりって?

佐藤:
映画は舞台となる中華料理屋の内装をミントグリーンにしようとなって決まっていきましたね。

それで西田尚美さん演じる主人公・春子と、長年疎遠になっていた旧友の知世(市川実和子さん)のインテリアやお店にも、ミントグリーンの小物や、同じような柄の布を忍ばせていました。

昔は同じセンスとかカルチャーを共有していたという設定だったので、疎遠だったけど実は好きなもので繋がっていたということを象徴するような美術にしたくて。

松本:
僕はどこに何を忍ばせていたのかとかは、もうわからないです。

最初に打ち合わせはするんですけど、細かな部分は佐藤さんに任せていましたから。

でもあの中華料理屋の美術を考えるのは楽しかったですね。

佐藤:
本当ですね。

でも私としては、映画を象徴するような場所だから不安が大きかったです。

監督は知らないと思うんですけど、撮影前日の夜、準備をしていたときに、うーん、もっとよくできそうなんだけど何かが足りないって、現場の皆で悶々とするシーンがあって。

それで何が足りないんだろうって美術さんや福田春美さんと話して、深夜にやっている花屋にかすみ草を買いに走るみたいなことをしていました。

松本:
そんなことしてたんですか。

全然知らなかったです。ただ次の日に美術さんの顔が疲れているなってことだけは気づいてました。

佐藤:
あはは。

松本:
昨日大変だったんだろうなって。

でもお店に入った瞬間のうわぁめっちゃいいって感じはすごいありましたよ。

 

言いたいことを言い合う関係性

ー 以前、松本監督が佐藤のことをスタッフのひとりだと思っていますとおっしゃられていて。今のお話を聞いていたら今回も完全にスタッフですね。

佐藤:
そうクライアントだと思ったことはないって。

松本:
いや最初の1回くらいは思っていたかもしれないです。

でもドラマの1話目が仕上がって、互いにいいなと思えるものができてからは、もうスタッフの一人という感じじゃないですかね。

佐藤:
言いたいことが言える関係になったっていうのがね。

2話目以降は、こんなシーンが欲しいとか私からもリクエストしましたよね。カップラーメンを食べるシーンを入れて欲しいとか。そういう希望のシーンリストみたいのを。

松本:
そうですね。

佐藤:
もちろん全部は採用されないんですけど、ちゃんとどれも意図を汲んでくれて、脚本に落とし込んでくれるんです。私たちが好きな暮らしの要素をちょこちょこと。

それは映画も一緒でしたね。

始まってすぐに食卓のシーン入れたいとか。

 

邦画の1作品としての面白さを突き詰めて

ー 脚本といえば、パンフレット内の監督のインタビューで、映画版の話が来たときに正直難しいと思ったと答えられていましたよね。あれはどうしてだったんですか。

松本:
すでにドラマの中で登場人物を結構描き切ってしまっていたので、新たなストーリーを作る難しさがありました。

ドラマを見たことがない人が見ても楽しめるだろうかとか。

この映画だけじゃなくて、今までのドラマも含めての『青葉家のテーブル』なので。まっさらな状態から考えた方が、やっぱり考えやすいんです。

佐藤:
2年前の夏、どういう映画にしていきましょうかって話していたタイミングで、監督のそのテンション感は感じていたんです。

それと同時に、実は私自身もスイッチが入るのに時間がかかって。

作りたい気持ちは最初からあったんですけど、それよりも邦画の1作品としてしっかり見せることができるだろうかとか。ドラマのファンがいる中で、映画はがっかりと思われてしまわないだろうかとか、不安な要素の方が大きくて。

1年くらい脚本だけのやりとりをしていましたよね。いけるなって思えたのって結構後半で、脚本が出来上がってきて、美術とか料理とかが決まってきたタイミングでした。

監督はどの辺でいけるかなと思ったんですか。

松本:
新しく脚本を書けそうだなと思えたのはクラシコムさんとやった、長編化に向けた最初のブレストの時かもしれないですね。

今回の映画のテーマとして「疎遠」というのを持っていきました。そしたらその場にいたスタッフから次々に疎遠エピソードが出て盛り上がったときに、なんかやれそうだなって。

で、そのときにクラシコムの青木さんだけずっと「タコスが熱い」って話をしていましたね。

佐藤:
あはは。そうだった。ちょうどNETFLIXでタコスの番組を見ている時で。

松本:
それで最初の脚本は、「疎遠」と「タコス」の2本柱で進んでいたんですよ。

佐藤:
あはは。タコスってどうやって話になるのって感じですよね。

松本:
でもそのプランで結構進みましたよね。

春子さんが山に篭って狩猟を始めて、それでタコスを作って町おこしフェスで売るっていう設定で。

佐藤:
そうそう。かなり壮大なロケーションで。

松本:
でも途中で、ひと夏の話に凝縮して、青葉家に新たな人物がやって来てっていうストーリーの方が、初見の方にもいいんじゃないかなって思って今の話になりました。

 

ちょっとダメで、生きにくそうな人たち

ー 新しく出てくる登場人物含め、みんな愛おしすぎるんですが、どんな風に生まれていったのでしょうか。

佐藤:
そう、松本監督の作品ってイヤなやつが出てこないんですよね。

松本:
イヤなやつが苦手なんですよね。単純に悪役を作ると物語が進みやすいと思うんですけど。

佐藤:
共通の敵みたいな感じで?

松本:
はい。でも悪役を登場させたら、その人も救いたくなるというか。別の側面にもフォーカスしたくなってしまうので、単なる悪役は描いたことがないです。

今回の映画の中でも、ちょっと胡散臭いデザイン事務所の大人たちが出てくるんですが、本当はもっといやな感じを出した方が物語はスムーズなんですけど。

モヤッといやな感じはありつつ、でもそこまで悪ではないリアリティのある大人を目指して調整していきました。

佐藤:
あのシーンはすごいそれを感じました。

優子(栗林藍希さん)のいたさも、いたすぎないし。品のバランスというか、松本監督の演出はそれがあるなって思います。

気持ちがゾワっとするシーンがないというか。

松本:
単純にそういう気持ちになるのが苦手なんですよね。

悪役は出てこないけど、ちょっとダメだったり生きにくそうだったりするキャラクターが青葉家には多く出てくると思います。なんかそういう人が好きなんですよね。

 

映画館でしか伝わらないものをちゃんと込めました

ー 今製作段階のお話を聞いたんですが、実際に出来上がった作品を見てどうでしたか。

松本:
編集段階で飽きるほど見ていたんですけど、試写で劇場と同じ環境で見たときに、音楽も相まって感動しました。

特にエンドロールとか。歌の歌詞が出るんですけどそれがグッときて。

佐藤:
私も試写で見たときにすごい感動しました。

何回も見ていたものなんですけどね。

松本:
映画って、映画館で見るように音響を調整していくんです。

始めて映画を作ったときにその作業をして。それでやっぱり映画は映画館で見るべきものなんだなって思いました。

家のパソコンやスマホじゃ伝わらないものがちゃんと込められているんです。

佐藤:
本当、この作品も映画館で見て欲しいですね。

 

監督がどうしても話したかったことって?

松本:
最後にひとつ話したいことがあって。

佐藤さんに脚本でアドバイスをもらったところがあるんです。

佐藤:
なんだろう。

松本:
疎遠になっていた春子と知世が最初に会うシーンで、あるきっかけで喧嘩をしちゃうんですけど、そのきっかけとなるセリフが、なかなか書けなくて。

脚本家チームで考えていても、40代の女性の、このイヤな感じが出せないなって悩んでいて。それを佐藤さんに相談したら、すぐにポーンと返してくれて。鮮やかだった。

佐藤:
あれまんま使ってくれてましたね。

松本:
そうです。そうです。

で、これを言われたら、相手はなんて言うんですかって聞いたら「それはこうね」って。(ちょっと女優ぽく)

佐藤:
そんな喋り方じゃない!

一同:
あはは。

松本:
だから、あそこはクレジットがないんですけど、佐藤さん脚本です。

佐藤:
市川さんの一番勢いの良いところ。

松本:
ちょっとねっとりとしたね。

佐藤:
もうちょっと良いアドバイスのところ言ってくださいよ。

松本:
いや、これがすごい良かったんですよ。

春子さんと同世代の佐藤さんだからこそ出る、体重の乗った言葉を出してくれて。

佐藤:
あはは。体重の乗った言葉って。

松本:
佐藤さんを知っている人にはぜひ見て欲しいですね。

佐藤:
なんだよそこの話か〜。

松本:
あはは。いやいや本当に良かった部分だったんで。

(おわり)

【写真】神ノ川智早

 

■作品情報

タイトル:青葉家のテーブル
公開:2021年6月18日(金)
監督:松本壮史
出演:西田尚美 市川実和子 栗林藍希 寄川歌太 忍成修吾 久保陽香 上原実矩 細田佳央太 鎌田らい樹 大友一生 芦川誠 中野周平(蛙亭) 片桐仁

企画・製作:北欧、暮らしの道具店
制作プロデュース:THINKR 制作プロダクション:株式会社ギークピクチュアズ
配給:エレファントハウス
© 2021 Kurashicom inc.

あらすじ
シングルマザーの春子(西田尚美)と、その息子リク(寄川歌太)、春子の飲み友達めいこ(久保陽⾹)と、その彼氏で小説家のソラオ(忍成修吾)という一風変わった4人で共同生活をしている青葉家。夏のある日、春子の旧友の娘・優子(栗林藍希)が美術予備校の夏期講習に通うため、青葉家へ居候しにやって来た。そんな優子の母・知世(市川実和子)は、ちょっとした”有名人”。知世とは20年来の友人であるはずの春子だが、どうしようもなく気まずい過去があり…。

映画『青葉家のテーブル』
公式ホームページ

『青葉家のテーブル』劇中歌のミュージックビデオが公開です

タイトル:このままじゃ(映画『青葉家のテーブル』劇中歌)
曲:Chocolate Sleepover
作詞・作曲:トクマルシューゴ

映画の中でキーとなるバンド「Chocolate Sleepover」(チョコレート スリープオーバー)が唄う劇中歌「このままじゃ」。書き下ろしたのは映画『 PARKS パークス』の音楽監修や無印良品のCM音楽制作を始めとした数多くの作品に関わるトクマルシューゴさん。「歌詞もメロディーも全てが絶妙です!トクマルさんの才能が爆発しています」と松本監督も太鼓判を押す一曲です。

トクマルシューゴさんよりコメントも!
「映画に登場するバンド、”Chocolate Sleepover”の2曲を作らせてもらいました。『このままじゃ』は音楽打ち合わせの直後にその勢いで作り始めて、2日目に録音して、3日目に提出して、4日目には採用されていたので、その時に録音した素材がそのまま使われてます。正直いつか自分もバンドでやりたい、と思うくらい2曲ともかなり気に入っています。ドラムは藤村頼正(ex.シャムキャッツ)が叩いています。『青葉家のテーブル』の世界と現実世界の日常がクロスしていくように感じてもらえたら嬉しく思います」

 

松本監督が、映画監督になるまでのお話を聞きました

インタビューはこちら

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松本壮史

1988年生まれ、埼玉県出身。CM、MV、ドラマなどの映像監督。映画「サマーフィルムにのって」(2021年公開)に続き、「青葉家のテーブル」が長編二作目となる。「江本祐介/ライトブルー」が第21回 文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品に選出。


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