【エッセイラジオ】第25夜:山本 ふみこさんのエッセイ「一杯やらない?」(読み手 スタッフ齋藤)
編集スタッフ 鈴木
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、随筆家の山本ふみこさん。読み手は、当店スタッフの齋藤です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
一杯やらない?
山本 ふみこ
「この春、小学生になりました」
仕事仲間のネジバナさん(仮名)の
お嬢さんのはなしです。
「まあ。学校にはたのしく通ってる?」
「ええ、いまのところは。でも、いつか
娘が辛い目に遭ったら、どうしよう……」
仕事をご一緒するようになって約1年。
わたしより25歳も若いのに、
なんて聡明な女性だろうと感心させられてきた
ネジバナさんにも迷いや不安があるのでした。
「まだ起きてないことを心配するよりも……」
と考えめぐらすさなか、ふと思いだしました。
いまから30年近くも前のこと。
ウィスキーを飲みながら、
深夜わたしは仕事をしていました。
フリーランスになったばかりで、
仕事の調整がうまくゆかず、大混乱。
そこへ長女がトイレに起きてきて、
あたふたしているわたしの前に
ちょこんと坐ったのです。
小学校に上がったばかりのこのひとに、
あろうことか、わたしはこう声をかけました。
「一杯やらない?」
「うん、やる」
自分が飲んでいるのと
同じウィスキーグラスを出してきて、
琥珀色のりんごジュースを注ぎました。
「最近学校はどう?」
とわたしは尋ねます、母親らしく。
「うまくやってるよ。そっちはどう?」
こう聞かれてわたしときたら、
そのとき抱えていた仕事上の悩みを
話したのです。カクカクシカジカ。
「ふーん。だけどさ、お母さんのやり方、
みんなに伝わってるんじゃないかな」
娘はそう云って、
グラスのなかの氷をカランと鳴らしました。
「そうだな、できることはしているのだから、
うん、ダイジョウブ」
このとき、娘に云われたことばに救われ、
気が楽になったのをおぼえています。
同時に、わたしは
このひとの母親にちがいないけれど、
これからはえらそうにしないで、
はなしのできるお互いになろう、と決めました。
「ネジバナさん、子どもと一杯やるとき、
語り合う1対1の約束のため、
大事なことがあるの」
それはグラスのなかの色をそろえること。
サイダーと日本酒、
ぶどうジュースと赤ワイン、
琥珀色のりんごジュースとウィスキー、
というように。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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