【計画性がなくても】第3話:家具がないまま半年。マイペースな家づくり
ライター 木下美和
年齢を重ねると、ふとした時に今まで似合っていたもの・選んでいたものが、しっくりこないと感じることがあります。審美眼を持つもの選びのプロにもそんな悩みはある? どうやって自分をつくる暮らしやファッションを選び取っている?
そんな話を聞いてみたくて、世田谷区松陰神社前商店街にあるセレクトショップ「This__」のオーナー・石谷唯起子(いしたに ゆきこ)さんを訪ね、お話を伺っています。
1話目のお店を開くまでの経緯、2話目の今気になるファッションの選び方に続き、第3話では昨年末から暮らし始めたばかりという新居のインテリアについて、語っていただきました。
引っ越しを機に、インテリアを180度転換
石谷さんの自宅は、白い空間に自然光の陰影とミニマルな装飾が印象的な、まるでギャラリーのような一軒家。内装やインテリアはこれまでと印象をガラリと変えてみたといいます。
石谷さん:
「インテリアの好みも、住む家ごとに結構変わります。今はこういう白や薄いグレー・ベージュ系の、直線的でシンプルな空間が好きです。
ちなみに、ここに引っ越す前に暮らしていたマンションは、無垢のフローリングにフランスの華奢なアンティークの家具やブロカントの雑貨があるようなインテリアだったので、まるで雰囲気が違いますね。
なので、今回の引っ越しを機にもともと持っていた家具はほぼ全部売って処分しました。この家に合う新しい家具を揃えようと思いつつ、なかなか腰を据えて探す暇がないままはや半年。何か違うんだよな〜って違和感を感じるものは絶対に置きたくないので、これ! っていうものに出合うまでは、この何もない状態が続くかも……」
片付けざるを得ない、壁付けのキッチン
部屋のどこを見ても、余計な装飾や凹凸を省いたシンプルでミニマルな空間づくりが徹底されている石谷さんのご自宅。キッチンまでもが壁面や作業台とシームレスにつながった造りで、生活感を感じさせません。
石谷さん:
「以前住んでいたフルリノベーションしたマンションでは、対面式キッチンでした。テレビを見たり子どもたちの様子を見たりしながらの台所仕事もよかったのですが、今回は違う感じにしたくて、あえて昔ながらの壁付キッチンにしました。
生活感がないのは、リビングで過ごしているとキッチン全体が嫌でも目に入るので、必要に迫られて片付けるしかないからですよ。 “自分を追い込めキッチン” です(笑)
調理道具や雑多なものは足元の収納と脇のパントリーに仕舞っています。あえて全部丸見えにしたおかげで、私も家族も使ったらすぐに仕舞う癖が自然とつきました」
▲写真右のポンプ式の石けんは、石谷さんがお店を開く以前からプロデュースしている完全無添加の石けんブランド、Atelier Muguet(アトリエ・ミュゲ)のもの。
シンクやコンロのまわりにもなるべくものを置かず、必要最小限の色味の少ない道具のみ。ちょっとした日用品一つとっても妥協のないもの選びに、デザイナーならではの視点が垣間見えます。
家具はなくても。花器と照明で味つけしてみる
そんなシンプル・ミニマルなインテリアの中で、はっと目を引く存在感を放っているのが、花器と照明です。1階の玄関ホールから、サニタリー、階段、2階のLDKに至るまで、随所に飾られたそれらは日用品でありつつ、アートピースのような美しさ。
石谷さん:
「家具はまだ買えてないのに、花器はついひと目ぼれして買っちゃいます。色や装飾は控えめで、木工品、陶磁器、ガラスなど、素材そのものの質感が感じられる手仕事のものや、有機的な形・デザインに惹かれます。この家ができてからは、念願の大きな花器を飾れるようになってうれしいです。枝ものをさっと差すだけでさまになります」
▲お店を始める前からファンだったaco potteryの花器。偶然にも知人を介して作り手本人とつながり、以来、オープン当初から扱っている看板商品のひとつ。
飾る場所は特に決めず直感的に選び、部屋のあちらこちらに置いてみてしっくりくる位置を探ります。ちなみにお気に入りのピーター・アイビーの照明は、以前のマンションでは天井の高さが足りず、それでも無理やり低めに吊るしていたことで、家族がしょっちゅう頭をぶつけていたのだとか。
▲玄関ホールの階段から廊下にかけて。〈写真下〉は地窓から見える内庭と、ピーター・アイビーの照明、Shintaro Muraoのミラーのバランスが美しい絵になる一角。
石谷さん:
「飾りたいものと空間のバランスが一致しないという失敗は割とあります。どこにどう飾れば美しいかはいまだに悩み続けているので、いろんな場所で試してみながら、それぞれのものが居心地よく収まるような配置を探しています」
***
インタビュー中、何度も「計画性がない」と口にしていた石谷さんですが、お店づくりからファッション、インテリアにいたるまで、「これが好き!」という素直で大胆な気持ちを最優先したもの選びが一貫していました。
同時に、自分が心地いいものを知るにはちょっとした差の「なんか違う」を敏感に感じることも大切だということ。言い換えれば、もの選びに迷った時は自分らしい暮らしをアップデートするチャンスなのかもしれません。
「今の自分にしっくりきてる? ワクワクしてる?」
石谷さんにならって、毎日着る服や過ごす部屋をあらためて見直してみたくなる時間でした。
(おわり)
【写真】佐々木里菜
もくじ
石谷唯起子
世田谷区・松陰神社前商店街に店を構えるセレクトショップ「This__」のオーナー。アートディレクターとしてデザインの仕事や、完全無添加の石けんブランド「Atelier Muguet」のプロデュースも行う。9歳と5歳の子どもを持つ二児の母。
https://www.this-is.jp
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