【人生のまんなか】第1話:心が揺れた40歳。キャリアを手離して、新しい業界で再スタート
編集スタッフ 寿山
40代はどんな景色が見えるのだろう。そんな好奇心から、人生の先輩にお話を伺っている特集「人生のまんなか」。今回は、鎌倉で器と生活雑貨を扱う「夏椿」を営む、恵藤文(えとう あや)さんを訪ねました。
40歳でお店をもち、50歳を目前に東京から拠点を移した恵藤さんに、これまでと今の仕事や暮らしについて、節目となる出来事を中心にお話を伺います。
40歳を前に、ふと「面白いことがしたい」と思った
恵藤さんが「夏椿」を開いたのは、ちょうど40歳のとき。会社員としてインテリアの仕事をしていた頃。30代の後半で、ある人物と出会ったことがきっかけでした。
恵藤さん:
「37歳のときに、知人から相談を受けたんです。知り合いの経営者が、新しい物件の運営を任せられる人を探していると。お店をやりたいと思っている人を誰か知らないかって。
それまでお店をやりたいなんて思ったこともなかったのに、瞬間的に『面白そう』と思ってしまったんです」
当時の仕事は好きだったものの、経験値を積むうちに、やることがどこかパターン化してきた感覚もあり、新しいことがしたい気持ちが芽生えていたと恵藤さん。それまで慣れ親しんだインテリアの領域ではなく「器と生活道具の店」を企画して提案し、晴れて運営を任せられることになりました。
恵藤さん:
「その方から『どういう風に店を作って、運営して行きますか?』と聞かれて、本当に一からすべて自分で決める必要がありました。仕入れ先も経営的なことも、私のお給料まで。考えをまとめて共有して『これはどうするつもりですか?』などと突っ込まれながら(笑)。
準備は大変でしたが、今思い返すと、お店をやる上での知識を教えていただいた恩師のような人ですね」
15年ほどキャリアを積んだ業界をはなれ、会社を辞めてスッと別分野の仕事に転身した恵藤さん。一連のことをさらりと語る様子に、とても素直な方だなあという印象を受けました。
迷いがゼロだった訳ではないけれど、心に湧いた小さな声を拾い上げ、まっすぐ進む。もちろん苦労話をあげればキリがないのだろうけれど、折々で自分の気持ちを大事にしながら生きてきたのだろうなあと感じます。
異業種での再スタートを、乗り切れたのは
そのあと任された店を無事に立ち上げ、軌道に乗せた頃に、いよいよ店を持つことを考え始めたそう。
恵藤さん:
「もともと店をやろうという気概があったわけではないのですが、任された店を運営するうちに楽しくなってきて、自分でやってみたいと思ったんです。少し郊外の静かな場所を拠点に、庭のある一軒家で季節を感じながら店をできたらいいなと、まずはお金を貯めました。
器の店をやろうと思ったものの、ずっとインテリアの仕事をしていたので作家さんをあまり知らなくて。クラフトフェアに行ったり、九州を旅したり。周囲に『今度お店をやるんです』と話していたら、前の職場の先輩が展示会や作家さんを紹介してくれたりと、少しずつ縁が繋がっていきました。
どんな出会いもすべてが定着するというより、一緒にやってみて合えば続いていくという感じがします。人と人との関わりなので、やはり合う合わないはあって、わりと最初にお互い感じるものがあるものです。無理して繋がるのは相手にも自分にもよくないことだと思いますし、そこは自然に任せてやってきました」
突然やってきた、50代を目前にした転機
世田谷でお店を9年ほど続けたあと、鎌倉へと拠点を移した恵藤さん。長く過ごした東京を離れるきっかけは、どんなことだったのでしょうか?
恵藤さん:
「世田谷の店は賃貸物件だったのですが、大家さんが亡くなって、退去しなければいけなくなったんです。賃貸なので、いつまでも続けられるわけじゃないと頭では分かっていたのですが、やはりショックでしたね。
そうは言っても、前に進まなければいけないですし、前々から興味のあった鎌倉で物件を探し始めました。私は横浜で生まれ育ったので、家族で海水浴をしたりお墓参りをしたり、馴染みのある土地でしたから。
昔から車で海に向かう途中、少しずつ気持ちが開いていく感覚があって、私に合う場所なのかなあという思いも。運よく今の物件を見つけて移転したのがちょうど50代になる前、49歳のときでした」
新しい場所で、スタートした矢先に
恵藤さんが営む「夏椿」が鎌倉に移転したのは、2018年の秋のこと。バタバタとした1年を経て、さあこれからという時にパンデミックに。お店を閉じた期間もあり、思うような形で展示会もできないまま4年目を迎えました。
恵藤さん:
「世田谷のお店では、展示に合わせてワークショップや料理会、お茶会などをやっていたのですが、今はそれも難しくて。作家のアトリエで打ち合わせすることも控えているので、棚の奥に眠っているような掘り出しものを発掘するのもなかなかです。
ただ、オンラインで出来ることは増えましたし、そのメリットやデメリットも見えてきたので、それも踏まえて新しいことをしたいなあという気持ちがあります。
50代になって経験値があがっている分、あれもこれもやったことがある、という感じになってしまうので、自ら新しいことに挑戦していかなくてはと」
恵藤さん:
「こちらに来て繋がったご縁もあって、一粒舎さんという革小物を作っているご夫婦と知り合って、手編みの長財布を作ってもらいました。ずっとやりたいと思っていた試みの一つでしたが、いい巡り合わせがなくて。
一粒舎さんが編み目のピッチなど細部にまでこだわって下さり、ようやく思い描いていた通りの長財布ができたと、嬉しかったです」
▲写真上:夏椿で販売している一粒舎の長財布/写真下:一粒舎さんを介して繋がった「Tisagge」の手織りカシミヤストール
どうにもならない状況や予想外の現実も、自分なりに受け止めて、納得のいく答えを見つけてきた恵藤さん。大切なことを決めるときは、頭で考えるより心の声を大切にされている姿が印象的でした。
力の及ばないところで「今までの当たり前」が変わることは、いつだって起こりうること。不安と焦りが押し寄せても「本当にこれでいいの?」と、最後に少しだけ踏みとどまって、心に問うことが大切なのかもしれないと、お話を聞きながら感じました。
つづく2話では、鎌倉に拠点を移してからの50代の暮らしについて伺います。
【写真】本多康司
もくじ
恵藤文
2009年に器と生活道具の店「夏椿」を開く。2018年に鎌倉へと移転し、月ごとに企画展やイベントを開催している。http://www.natsutsubaki.com
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