【続ける力】前編:続けよう、じゃなくて、続いていた。わたしの仕事の支えになったこと
編集スタッフ 野村
今までとは違う仕事に挑戦した。自分でやりたかったことを仕事にした。30代になって、周りからそんな話を聞くことが増えました。
何かを始めた人たちを見て憧れる一方で、私はこのままでいいのかな、と焦る気持ちがあります。
この先も何もしないままだと、ずっと変われなくなってしまいそうで、そのことに漠然と不安を感じることも。
もし、ひとつの仕事を続けていたからこそ見える景色や気づきもきっとある、と思えたら。
そんな気持ちを持って、同じ職種・仕事を続けると決めた同年代の方にお話を伺いました。
「この仕事をしよう」と決めたのは、いつですか?
今回お話を伺ったのは、ヘアスタイリストの原澤 雅(はらさわ みやび)さん。当店の商品ページや読みものページでも、いつも素敵なヘアメイクやスタイリングを手がけてくださっています。
20歳から約7年間ヘアサロンで働いた後、独立し、現在はフリーのヘアスタイリストとして活動。この仕事に就こうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
原澤さん:
「きっかけは高校生の時でした。東京へ遊びに行った時に、あるヘアスタイリストの方から、声をかけていただいたんです。
その方は、当時雑誌などでもよく見かけていた有名な人で。もう声をかけていただいただけで『わあ、嬉しいな!』と興奮していました」
原澤さん:
「その方に実際にヘアカットをしていただいて、カット後の自分の姿を鏡で見た時、は!と思わず声が出るくらい素敵な仕上がりになっていて。気持ちがぐっと上がるのを感じました。
こんな体験を誰かに与えられる仕事ってすごい、と自分の中で衝撃が走った出来事になったんです。
もともと美容師になるのっていいな、とぼんやり考えていたのですが、その出来事をきっかけに『私は、美容師になりたい』と決心。それに、そのきっかけをくれたヘアスタイリストの方が働くサロンで一緒に仕事をしてみたい、という目標もできました」
しんどくても「辞めたい」とは思わなかった
憧れの人と一緒に働きたい。その一心で美容師としての道を選び、東京の専門学校へと進学。目標としていたヘアサロンへの入社も無事に決め、自分の目指したい道をブレることなく進んでいきます。
でも入社してからのアシスタント期間は、辛いと感じていた時期でもあったそう。
原澤さん:
「ほぼ毎日朝から終電までお店にいて、休みの日も外に出てカットモデルをしてくれる人を探したり、メイク練習をさせてくれるモデルさんを探したり、と気持ちにも体力にも余裕がない状態が続きました。
そして美容師になるきっかけをくれた憧れの方は、私が入社する半年前にイギリスへ渡って、フリーのヘアスタイリストとして活動されることになり、結局一緒に働くことは叶わずじまいに。
でも現地での活躍をSNSなどを通して知るたびに、かっこいいなぁと私の中での憧れの人として、ずっと目標にしています」
原澤さん:
「だからアシスタント期間は『つらい、しんどい』と感じていた時期ではあったのですが、『辞めたい、職種をかえたい』とは全く思っていませんでした。
早くスタイリストとしてデビューして、憧れの先輩のように1人でお仕事を頂けるようになりたい、この時期を乗り越えればなんとかなる、と自分に言い聞かせて目の前の仕事に打ち込む日々でした」
仕事は広がりを持って、続けられるもの
多忙だった3年間のアシスタント期間を経て、念願のスタイリストデビューを果たした原澤さん。
ヘアサロンでの美容師としての仕事や、雑誌・広告のヘアメイクの仕事も担当していき、経験を積んでいきます。
原澤さん:
「スタイリストとして仕事をして1年半ほどが経った時に、体調を崩してしまい、たびたび仕事をお休みしていた期間がありました。
そしてそのすぐ後にコロナ禍になり、思うように仕事ができない時期が重なってしまって。
今まで忙しくさせてもらっていたからこそ、自分の将来のことにはあまり目を向けられていませんでした。その時が初めて『この先、私はどんな仕事をしていきたいんだろう』『どんな自分になりたいのかな』と立ち止まって考える瞬間になったんです」
原澤さん:
「自分の将来について、ぐるぐると考えて出てきた答えが『拠点を持たずに、いろんな場所で自由に動き回ってみたい』ということでした。
振り返ると、その答えに行き着いたのはヘアサロンの周りにいた先輩や同僚たちが色々な道へ進んでいくのを見て、刺激を受けていたからだと思います。
憧れだった先輩は海外でスタイリストとして活躍されていたり、またある先輩は自分のお店を作ったりと、色々な活躍の道があることを目にしてきました。その姿を見て、ヘアスタイリスト・ヘアメイクの仕事は1本道じゃなくて、色々と広がっているんだ、と感じて。
そんな気持ちにずっとさせてもらっていたからこそ、私もフリーのヘアスタイリストとして、場所を決めずに活動してみたいと確信できました」
続けよう、じゃなくて、続いていた
▲ヘアカットを担当しているイラストレーターのお客さんに、現在の名刺をデザインしてもらったそう
そうしてフリーのヘアスタイリストとして独立することを決意し、2023年となる今年でアシスタント期間から数えて、この業界での仕事は9年目を迎えます。
ひとつの職種を長く続ける支えになっているのはどんなことだったのでしょうか。
原澤さん:
「この仕事を『続けよう』という意識はそれほどしていなかったけれど、続いていた、という感覚が今は強いです。
でもきっとこの仕事で関わる人たちに助けられているおかげで、続けさせてもらっているんだと思います。
ヘアカットを担当しているお客さまに、仕上がりを喜んでもらえた瞬間は、この仕事をやっていてよかったといつも感じますし、その瞬間を思い出して、よし頑張ろうって。
もし自分ひとりだけで黙々とやる仕事なら、続けられていないかもしれないです」
原澤さん:
「それと、ヘアサロンに入社した時に頂いてから、ずっと愛用しているシザーケースに入っている仕事道具は支えのひとつかもしれません。
このシザーケース一式があれば、日本全国、世界のどこであってもヘアスタイリスト・ヘアメイクの仕事ができます。そうやって、自由に動きたいと思った自分の気持ちを支えてくれる存在だなと思うんです」
***
仕事は1本道じゃなくて、色々な広がりを持ちながら続けていけるもの。
ひとつの仕事を続ける中でも、自分自身のあり方や動き方は自由に変化させていけること。
そんな視点を持つだけでも、ひとつの仕事と共に自分にも変われる余白がまだあるんだ、と視野がちょっと開けた気持ちになりました。
続く後編では、原澤さんに、仕事に関する悩みや不安とどんな風に付き合っているか、お話を伺いました。
(つづく)
【写真】鈴木静華
もくじ
原澤 雅
ヘアスタイリスト。都内ヘアサロンでアシスタント、
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