【巡りのいいキッチン】第3話:道具も食材も、好きなものだけ。キッチンはいつも生活の真ん中に(料理家・まきあやこさん)

編集スタッフ 岡本

今よりも居心地のいいキッチンにしたい。そう思うものの、バタバタな日々のなかで見直す時間を取るのは難しいし、毎日立っていると使いにくさにも鈍感になっている気がします。

ご飯作りには終わりがないからこそ、キッチンで過ごす時間を少しでも前向きなものにできたら。

そんな思いから、居心地のいいキッチン収納の特集をお届けしています。

第3話では、料理家のまきあやこさんのご自宅にお邪魔しました。

第1話から読む

 

いつだって料理が好き。暮らしの中心にあるキッチン

ケータリングチーム「Perch.」を主宰するまきさん。東京・笹塚にあるアトリエでは、数人のスタッフとともに、時には200人分の料理を作ることもあるのだとか。その様子も気になるけれど、今回訪れたのは、まきさんが暮らすご自宅のキッチンです。

まきさん:
「ここに立つときは、食べたいものがあって何かを作る余裕があるときだけ。

毎日仕事で料理はたくさん作っているけど、いざ休みの日に何をしようと思っても、やっぱり料理がしたくなるんですよね。

気の向くままに食べたいものを作っている時間は、本当にワクワクします」

 

コンパクトなキッチンを占める最愛の器

リビングと寝室をつなぐ位置にあるキッチンは、この部屋の主役とも言える存在感。背面の棚には、まきさんお気に入りの器が雑貨のように並んでいました。

まきさん:
「カウンターに座って窓の外を眺めるとき、必ずこの棚が目に入るんです。だからここに置くものは自分の好きなものだけにしようと決めています。

最近、モノは情報だなと感じるようになりました。

モノとしての魅力だけじゃなく、買ったときに一緒にいた人とか、お店でのやり取りとか、それにまつわる思い出が浮かびますよね。

手に取ったときに伝わってくる情報が自分にとってポジティブなものであるかどうか、を大事にしたいんです。長年使っていてネガティブな情報に変わったら、手放し時かなと、誰かに譲るようにしています」

まきさん:
「昔はもったいないから持っていようと思っていたけど、いい気持ちで向き合えないものをうちで寝かせておく方がもったいない。もっと活かしてくれる人の元へ巡るように、手放せるようになりました」

白い器を眺めていたら、最近買ったお気に入りです、と教えてくれたまきさん。この器を買ったギャラリーの方がすごく素敵な人だったの、と嬉しそうにお話しする笑顔から、まきさんにとってポジティブな存在であることが伝わってきます。

▲取手がついた一番大きなものが、最近買った器。静岡県にあるギャラリー「ニワノアイダ」にて購入した十場あすかさんの作品。

 

調理道具は、鍋、包丁、フライパンだけ

▲ボウル代わりに使っている大きな器。サラダを和えたりハンバーグをこねたり、ボウルとしての役割もしっかり果たしている

家庭によくあるシステムキッチンではないため、後付けの棚がメインの収納場所。突っ張り棚3段と、無印良品のスタッキングシェルフのみと限られた空間ですが、雑多な印象はありません。

まきさん:
「器は増えがちだけど、その分調理道具はかなり削ぎ落としています。あるのは、鍋、包丁、フライパンくらいかな。

調理道具は再現性が高いから、ピーラーやボウルなど、専用の道具は持たないようにしてるんです。

皮を剥くときはよく研いだ包丁があれば大丈夫、何かを混ぜるときは大きめの器を代用しています。作るのは一人分で、時間に追われながら料理をする場面がないから、無理なくできているのかもしれないですね」

▲中央にある黒い鍋が最もよく使う調理道具。オーストリアのホーローメーカー『RIESS』のもの

まきさん:
「一番よく使う鍋は、壁にかかっている一人分の浅いタイプ。

鍋が大きいと余白を埋めたくなって作りすぎちゃいませんか。暮らしているサイズに合った鍋やフライパンを使うのが、適量を作るコツですよ。

生活ってどんどん変わるから、その時の自分に合わせ続ける必要がありますよね。キッチン道具や収納も、一度決めたものがずっと心地よいものであることは少なくて、どこかでずれることもあるはず。

生活自体が変わり続けるのだから、答えも変わり続けるのは当然で、ゴールはないんだなあと思います。

でも逆に考えると、ゴールがないんだからベストを目指さなくてもいいなって。答えをひとつに決めないで、心地よい方へ流れていく。

今の自分にちょうどいい最適解を探す、マラソンみたいですね」

 

ストックせずに、食べたいときに買いに行く

まきさんのキッチンでは、道具だけなく食材も同じ基準で選んでいました。それゆえに食材のストックはほとんどしていないのだそう。

まきさん:
「食材は食べたいものがあるときに、買いに行くようにしています。

家で食べる日が不規則で読めないから、食材をストックしておくと食べなくちゃと負担になってしまうんです。近所にスーパーがあってすぐに買いに行けるのも、このスタイルでいられる理由ですね」

冷蔵庫の中を見せてもらうと、余白がいっぱい。こここも収納の一部という感覚で、調味料やスパイス、空き瓶など冷やす必要のない細々したものをまとめていました。

またシンク下は空洞になっていて、3段引き出し・ゴミ箱・水の保管場所に。引き出しの中には、片栗粉やパスタ、缶詰が少しだけ入っていました。

まきさん:
「タッパーや琺瑯などの保存容器は持っていないのですが、この冷凍ご飯用の容器は大のお気に入り。

中にすのこが入っていて、温めたときに余分な水分を落としてくれるからふっくら仕上がるんです。スタッフにもおすすめしてみんなで愛用しています」

▲マーナの『極 冷凍ごはん容器』。まきさんは8個愛用中

 


まきさんおすすめ冷蔵庫整理メニュー

余った食材は一旦冷凍して、カレーにするのが吉


▲冷蔵庫の余り物500cc・水500cc・カレールー3かけが基本の目安だそう

最後に冷蔵庫の片隅にある使いかけの野菜たちを、たちまち美味しい一品に変身させる技を教えてくれました。

まきさん:
「ちょこっと余った人参や、食べきれなかったおかずは、一旦冷凍しちゃいましょう。

後日時間があるときに、全部まとめてカレーにするとお店のような味に仕上がりますよ。

調理前の食材でも火を通した味付きのおかずでも、本当になんでもOKです。半解凍したら粗みじん切りにして鍋へ、水とルーを入れて煮込むだけなので簡単です。

私たちのケータリングチームでは『一期一会カレー』と呼んでいて、大人気なんです」

まきさん:
「例えばトマト煮だったら、それぞれの食材の味がグッと前に出てまとまらないかもしれません。

でもカレーに入っているスパイスが食材の癖を、いい具合にひとまとめにしてくれるんです。

これ以上いくと腐っちゃいそうだけど今日作る料理のどれにも加えられない。そんなときはすぐ冷凍して、とびきり美味しいカレーを作っちゃいましょう」

ハンバーグやポテトサラダなど、とにかく何を入れてもいいそう。この方法を活用したら我が家のフードロスがぐんと減らせそうです。

家族構成や生活スタイルの異なる3名のキッチンを訪れた今回の取材。お話を聞いてみたら、いくつもの共通点がありました。

どのキッチンも食材が循環していること。余白を設けていること。移り行く生活を柔軟に受け入れていること。

どんな方法を選ぶかは人それぞれだけれど、居心地のよさや使い勝手のよさには、いくつかの基準があることを教えてもらった気がします。

***

家に帰ってさっそく、キッチンに立ってみると。料理を作る気分で塩や砂糖などの調味料セットに手を伸ばそうとしたとき、その場所の違和感に気付きました。

試しにコンロ脇の小さな引き出しに移してみたら、動作のスムーズさにびっくり。その日から整いスイッチが押されて、少しずつ今の私にちょうどいい場所へと変えている最中です。

キッチンで過ごすのが好きな人もそうでない人も。この記事がよりよいキッチンへと近付くひとつのきっかけとなれたら嬉しいです。

(おわり)

【写真】ニシウラエイコ


もくじ

 

まきあやこ

料理家 Food producer / stylist、Perch. 主宰。テーマ性のあるオーダーメイドのケータリングやお弁当、イベントでのフードコーディネーションを手がける他、フードスタイリング・レシピ開発などを中心に活動中。Instagramのアカウントはこちら @cateringteamperch

 


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