【ワンルームに、好きなものだけを】後編:物語が生まれる空間づくりって? ドラマ『ひとりごとエプロン』の美術チームに聞きました

編集スタッフ 松田


このたび新しく、「ひとり暮らし」をコンセプトにした、ワンルームの撮影スタジオができました。

前編では、そのワンルームスタジオの空間の間取りやインテリアをたっぷりの写真とともにご紹介しました。

前編をよむ


このスタジオのインテリアを一緒につくってくれたのが、株式会社TASKOの美術部のみなさん。じつは、2019年冬に公開した当店オリジナルドラマ『ひとりごとエプロン』の美術を担当してくれたチームでもあるんです。


この後編では、その美術チームの皆さんにインタビューをしました。

日頃何気なく観ているドラマや映画でも、背景に映るインテリアが印象的で、つい登場人物の趣味や生活を想像してしまうことがあります。

今回のインタビューでは、そんな「映像の背景をつくる」美術というお仕事についてや、『ひとりごとエプロン』の制作秘話、さらに今回のワンルームスタジオでこだわったポイントなど、さまざまなお話を伺いました。


物語が生まれる空間って? 背景のすべてに理由があるんです

▲株式会社TASKOの美術部チーム。(写真左から)加賀谷さん、加藤さん、北澤さん

いわゆる“美術さん”と聞くと、なんとなくイメージは浮かぶものの、実際にはどんな仕事なのか、改めてお話を伺いました。

「コマーシャルや映画など、撮影の現場では、カメラが切り取る空間のすべてに目を光らせる仕事です」と語ってくれたのは、北澤さん。

北澤さん:
「美術の仕事には、デザインや設計をする人、進行管理をする人、セットを建てる人、小道具や装飾を準備する人など、たくさんの役割があります。それぞれが連携しながら、一つの空間をつくり上げていきます。

このチームでは、加藤が総合的なデザインを担当し、加賀谷と私・北澤が装飾の制作や進行を担うことが多いですね」

▲今回のワンルームスタジオで総合デザインを担当した加藤さん。「文化祭みたいな仕事がしたい」という思いから美大に進学。卒業後、美術を担当した短編作品がカンヌ映画祭にノミネートされ、現地で見た景色や映画に携わる人々、観客の熱量に感動し、美術デザインの道へ進むきっかけとなったそう

加藤さん:
「物語の大枠を描いて、全体を舵取りするのが監督。そのイメージをもとに、登場人物の見た目を考えていくのがヘアメイクさんや衣装さんだとしたら、空間について一番考えて、責任を持つのが私たち美術の役割です。だから、背景に置かれた小物一つをとっても、『なぜこれをここに置いたの?』と聞かれたら、必ず理由を持って答えられます。

その空間にいる人物はどんな人で、どんな時間を生きているのか。その“時間”の存在こそが空間を立ち上げるうえで欠かせない要素で、私たちはいつもそこを軸にデザインを膨らませていきます。

トレンドを取り入れた洗練された空間も好きですが、使い込まれたような味わいのある空間にも魅力を感じます。だからこそ、さまざまな空間をつくれる美術の仕事は、本当に楽しいです」

▲美術チームのみなさんが棚やベッド下のパレットを塗装している様子

加賀谷さん:
「私は大学で建築を学んでいたので、空間全体にももちろん興味がありました。でもこの仕事に就いてからは、特にモノや小道具一つひとつへの愛着や思い入れが強くなったと感じています。

舞台に置かれた道具は、登場人物のキャラクターを象徴したり、物語を動かすきっかけになったりと、重要な役割を担っていて。

たとえば、『この登場人物が、このタイミングで持っているモノって何だろう?』と考える。その過程で物語に寄り添いながらアイテムを選んだり、時には一からつくったりする。そんな時間が、この仕事のなかで一番好きで、面白い瞬間です」


ドラマ『ひとりごとエプロン』のインテリア。季節で少しずつ変わる部屋の景色が好きでした


TASKOの美術部のみなさんと私たちが初めてご一緒したのは、料理と音楽をテーマに、団地でひとり暮らしをする夏希が主人公のオリジナルドラマ『ひとりごとエプロン』でした。公開から5年半が経った今も、多くの方に愛され続けているシリーズです。

夏希の部屋には、蚤の市で見つけたような雑貨や、おばあちゃんから譲り受けたような懐かしくて可愛いアイテムが並びます。そんな部屋の世界観を、美術チームのみなさんと一緒に楽しみながらつくり上げました。

ドラマをご覧になったお客様からは「インテリアが可愛い!」「世界観が好き!」というお声もたくさんいただきました。


ー 美術チームのみなさんにとって、「ひとりごとエプロン」はどんな作品でしたか?

加藤さん:
「『ひとりごとエプロン』は全3シリーズ。数ヶ月おきに撮影を行うスタイルは、私にとって初めての経験でした。季節ごとに少しずつ変わっていく部屋の景色を間近で見ていたこともあり、あの部屋には特別な愛着があります。

クラシコムさんとのお仕事もこの作品が最初。はじめはどんなバランスでいくべきか探り探りでしたが、打ち合わせで店長の佐藤さんが、『あなたのような人が住んでいるお家をイメージしてください』と言ってくれたおかげで迷いがなくなって。わたし自身の“好き”を取り入れながら、自由度高く空間づくりをさせてもらいました。これまで手がけた中でも特に思い入れのある作品です」

加賀谷さん:
「雑貨が好きな夏希のこだわりを部屋の景色に反映させたくて、加藤と一緒に長い期間をかけて西から東へ車を走らせて、リサイクルショップやアンティークショップ、フリーマーケットを探し回ったんです。

撮影のためにあんなに時間をかけて、ひとつひとつ吟味して小道具を探すことができたのは、これまでの美術の仕事のなかでも貴重な経験でした」

▲撮影中の加藤さんと店長佐藤の様子

加藤さん:
「団地が舞台だったので、小さな部屋でモニター数が限られていたので、部屋の隅で監督や佐藤さんと頭を寄せ合い、画面を見ながら背景のバランスを何度もチェック。

「そこ!」と声が同時に重なったり、ときに佐藤さんが物を動かして私がモニターを見たり、逆転したり。この時間を通して佐藤さんとの信頼関係みたいなものが築けた気がしています」

▲夏希が料理をするカウンターはオリジナルでデザイン&製作。団地のターコイズブルーのドアから着想を得て、この色をキーカラーにしました

ー 特に印象に残っているシーンはどの場面でしょうか?

加賀谷さん:
「シーズン2の第6話で、夏希が豆苗を切るシーンです。

美術部の仕事では小道具を “育てる” といって、生活のリアリティさを出すために、あえてこすって少し傷をつけたり、実際に自分たちで時間をかけて使い込んだりすることがあるんです。

あの豆苗もこのワンシーンのために一度切って、撮影日に合わせて私たちで育てたもので。個人的に『この子は可愛くていい伸び方したなぁ』と愛おしささえ感じ、はさみでカットする瞬間は本番の撮影で一発勝負だったので、すごくドキドキしながら夏希の手元を見つめていました」


加藤さん:
「わたしはやっぱり1話の、夏希が踊るシーンかな。

初めての撮影で、クラムボンの『Lush Life!』に合わせて夏希が踊り始めたとき、監督兼カメラマンの杉山さんも一緒にノリ始めて、まるで即興のセッションのようでした。

その瞬間、この作品と部屋に命が吹き込まれたように感じて、今思い出しても胸が熱くなる、大好きなシーンです」

夏希が踊るシーンも見どころ
「ひとりごとエプロン」1話はこちら
可愛く育った豆苗に注目!
「ひとりごとエプロン」6話はこちら


好きに囲まれて、自分のペースを静かに取り戻せる。そんなワンルームになったら


ー 今回美術をお願いしたワンルームスタジオの空間について、ポイントとなったのはどんな部分でしょうか。

加藤さん:
「最初にお話を伺って、このワンルームは『好きに囲まれて、ひとりを味わう静かな没入空間』というテーマでつくっていこうと決めました。

たとえば、コックピットのような椅子やベッドに身を預けて、風に揺れるカーテンをぼんやり眺めたり、光がきれいだなぁって心をゆるめたり、本を読んだり。外の世界ではもちろんいろいろあるけれど、家に帰ってきたら、心が落ち着いて自分のペースを取り戻せる。そんな場所になればと」


加藤さん:
「北欧、暮らしの道具店は、まさにそんな暮らしの豊かさや大切さについていろんな形で提案しているお店。そうしたイメージを空間に落とし込みたいと思ったんです。

デザインを描く中で最初にぜひ入れたかったのが、くすみカラーが可愛いベロアのクッションカバー。カラフルなクッションをたくさん並べて、そこでくつろいでいる絵が浮かんだんです。ここから、どんどんイメージを膨らませていきました」


加藤さん:
「もうひとつ、メインのポイントはあの部屋だ!と印象に残るような植物柄の壁紙。すこしクラシックで奥行きを感じさせる柄が素敵だなと思い、スウェーデンから取り寄せたものです。

空間のキーカラーはグリーンに決めて、たくさんのコーナーに取り入れました」


▲このグリーンの棚は、既製のものに自分たちで塗装を施し、黒い脚をつけてアレンジしたもの。本や雑貨を収納したり、オブジェを飾ったり、コスメを置いて身支度するスペースとしても活躍します


加藤さん:
「塗装やちょっとしたDIY、ポストカードの貼り方など、実際の暮らしにも取り入れやすいインテリアの工夫もたくさん詰め込みました。模様替えやお部屋づくりの参考にも楽しんでいただけたら嬉しいなって。

じつは『ひとりごとエプロン』で使っていた雑貨を、こっそり置いている場所もあるんです。“あれ?”と気づいてもらえたら楽しいかもしれません(笑)」


▲「ポストカードを複数枚飾るときは、色の重なりやグラデーションを意識すると統一感が出て、ひとつのアートのようになります」と加藤さん

▲収納ラックでスペースをつくったり、バスケットに調味料をまとめたり。たとえ小さなキッチンでも工夫次第で機能的で可愛い空間に

限られたスペースでも、自分の好きなものを少しずつ集めて、静かな時間を過ごせるひとりのための空間があったら。

そんな想いを込めて、TASKOの美術チームのみなさんと一緒に作った今回のワンルーム。今後、さまざまなコンテンツで登場し、いろんな暮らしの提案をお届けしていく予定です。楽しみにしていただけたらうれしいです。

【写真】黒川ひろみ(1,3,4,13~20枚目)



もくじ

株式会社TASKO 美術部

映像美術での活動を軸に、舞台美術、ウィンドウディスプレイや商業施設での装飾、展示空間など、『美術』という領域を広く捉え活動。当店のオリジナルドラマ『ひとりごとエプロン』や、映画『青葉家のテーブル』の美術も手がけている。

HP: https://tasko.jp/about/art/


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