【変わり続けるふたり】前編:40歳を過ぎて、コミュニケーション頑張り中。「やり方」はリセットできる(佐藤 × 田中)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、クラシコムにまつわるデザインの全てを統括しているコーポレートクリエイティブ室の佐藤と、ドキュメンタリー映像作品の制作などに携わるコンテンツ開発グループの田中が登場。

二人には、自身の仕事に加えて「マネージャー」としてメンバーと向き合う共通点もあります。もともと独立を考えていた佐藤は、クラシコム代表の青木からの誘いで入社。一方で、広告制作の現場でプレイヤーとして邁進していた田中は、マネジメントも担う立場に。

一人で働くこと、チームで働くこと。それぞれの経験から見えてくるものとは……。前編は主に田中が聞き役となって、佐藤に色々と質問してみました。

 

父の手書きサインが、興味を持ったきっかけ

田中:デザインへの興味は、いつ頃から持っていましたか?

佐藤:覚えているのは、小学1年生の時。父親の帰りがいつも遅くて、母が「お父さんと交換日記をしよう」と提案してくれたんです。僕が日記を書いたら、父は「見たよ」とサインを入れてくれる。そのサインが、イニシャルをもとにしたデザインだったんです。

「文字って、こんなことしてもいいんだ!」と、初めてデザインを意識した瞬間だったと思います。あとは、小学6年生くらいの時に、住んでいた市のシンボルマークに不満があって、勝手に作り直してみたり(笑)。そういうことはよくやっていました。「自分だったらこうしたいな」という欲求が強かったんでしょうね。

田中:本格的にデザインの道へ進んだのは、いつぐらいからですか?

佐藤:高校生になって、バイトで貯めたお金でMacを買ったんです。進学先が工業高校のグラフィック科だったので、3Dなんかもやり始めた時代で。卒業後は、友達が音楽バンドを組んでいて、CDジャケットを作ったこともありましたね。実はこの頃に、青木さん(※クラシコム代表の青木)とも知り合っているんですよ。

 

プロダクトデザイナーの難しさに直面して……

田中:青木さんはクラシコムができる前からのお知り合いなんですね。デザインが本業になっていったのは、どこからですか?

佐藤:高校を卒業して、産業用の金属加工の仕事に就きました。それも大好きだったけれど、仕事をしながら夜と週末にデザインの学校にも通い始めたんです。

その時の講師が自分のデザイン事務所でスタッフを募集していて、転がり込んだのが最初ですね。そこは建築事務所でしたが、空間デザインやグラフィック、サイン系の仕事もあって。1年間くらい働いたけれど、かなり過酷な現場で、「続けられそうにない」と辞めることにしました。

それで、また別の仕事をしながら、デザインの仕事を副業で請けるようになったんです。僕自身はプロダクトデザインをやりたくて、海外の展示会にもよく出品しました。試作品を出展すると世界中のクライアントが来て、デザインを買ってくれる……かもしれない(笑)。

田中:どういうものを作られていたんですか?

佐藤:コートハンガーや照明ですね。実際、買ってもらえたこともあって、この仕事で独立したいと思っていたんです。本業として1年くらいやってみたんですが、続かなかった。「これはきついな」と思いながらやっていて……。

田中:青木さんたちとの交流も、まだ続いていましたか?

佐藤:そうですね。何かと仕事で「デザインで必要なもの」があった時は声をかけてくれたんですよ。

「北欧、暮らしの道具店」が始まって5年間くらいは、ホームページやロゴなんかも全部を青木さんたちが自分で作っていたんです。そこから、だんだんスタッフを雇うようになってきて、デザインに力を入れられるようになってきたタイミングで、青木さんから誘われてクラシコムに入ることになりました。

入社してからは、それこそホームページやロゴを作り直したり。そういった大きな仕事がいくつもあってのスタートでした。

 

入社時に「自分のやり方」をリセットしてみようと決めた

田中:仕事の環境も、個人からチームへ変わったわけですよね。

佐藤:大変だったけれど、入社時にマインドセットを一度リセットしたのがよかったです。

それまでは「自分がいかにできるか」という自分起点で物事を考えていました。仕事も「表現者として」という意味で取り掛かっていた、というか。だから、クライアントワークをしていても、「やりたいこと」と「やっていること」がちょっと違う、という感じがあった。それが行き詰まりの原因だったかもしれません。

クラシコムに入社すると決めたら、一旦は「自分のやり方」をリセットしてみて、新しいやり方を全部受け入れようと思って。だから、その後にデザインチームを立ち上げて組織を作っていくことになったときも、ゼロから始める感じだったので、それほど苦じゃなかったんです。

田中:これまでの「自分のやり方」って、どこか信じたくなりますけどね。

佐藤:そうですね。でも、こだわらずに、やり方を吸収してやっていこうと。それに「北欧、暮らしの道具店」のお客様は多くが女性で、僕はことさら女性向けのプロダクトを作ってきたわけではないから、素直に取り組むしかなかったのかもしれません。

 

チームで仕事をするから、言語化は必要になってくる

田中:クラシコムには「言語化」という文化がありますよね。デザイナーさんだと言葉での表現がほとんどなくなるから、そこに何か難しさというか、相容れなさがあるのかなって、気になっていました。

佐藤:確かに、言葉ではないコミュニケーションツールとしてデザインがありますからね。その意味では、コミュニケーションのための言語化は、デザインにおいてはそれほど必要ないかもしれない。説明したとしても、見たもので判断されるのことには変わりないですし。

それで言うと、「自分や状況を理解するための言語化」はやった方がいいと考えています。無意識になっていることを意識できるようにする。それは僕のグループでもよく伝えていることの一つです。

田中:個人で仕事しているときは言語化って、それほどいらないんですよね。やっぱり人とはたらくときに必要になってくる。

佐藤:そうかもしれません。フィードバックも言語化だから。

僕らは毎日、グループで「朝会」をやっているんです。その時に、メンバーからデザインの途中経過を見せてもらったり、相談をどんどん受けたりして、みんなの前でフィードバックするようにしています。そこでは、なぜ良いのか、どうすれば良くなるのかを、僕が具体的に伝えなきゃいけない。

感覚で答えてはいけない、と決めています。作った人はそこへ魂を込めているから、安易に「よくない」なんて言えません。

田中:みんなの前で、というのも大事ですか?

佐藤:メンバーみんなに見てもらうことで、僕の判断基準や考え方も、自然と染み渡っていくんじゃないかと思っているんです。

 

40歳を過ぎてから、コミュニケーション、頑張っています

田中:あの……私自身、自分が無意識に「良い」と思っていることを、チームで共有する難しさを感じているんです。言葉がうまくないから、どこが「良い」と思っているか相手にとってもわかるように話せていないんじゃないかなって。少人数であれば「なんか、いいよね」で済んでいたのが、そうはいかなくなってきている感覚というか。

佐藤:言葉がうまくいかない、で言うと、僕は「しゃべらないと思考が進まない」って最近になって気付いたんです。実は、静かに考えることが苦手みたいで。人と積極的にしゃべるタイプではないと自負しているから、なんだか逆説的だけれど。

田中:意外ですね!

佐藤:しゃべり始めてから考えることもよくあります。テクニックになってはしまうけど、「理由は3つあって」と初めに伝えて、1つ目を話しながら2つ目、3つ目を考える(笑)。

田中:積極的にしゃべらないはずなのに、それは頑張っていますね(笑)。

佐藤:それこそ40歳を過ぎてからですよ。他者とのコミュニケーションについては、チームができてから関わりが増えて、もう少し頑張ろうという気持ちになってきたのは。本当は知り合いを増やしたいタイプでもないけれど、新しいことをやる時には人脈も必要なことがあるから、それも頑張っています。

田中:そのモチベーションは、どこから湧いているのですか?

佐藤:僕一人だけで仕事をするならいいんですけど、僕がダメだとグループの人たちの仕事にも影響が出てしまうから。自分がボトルネックになりたくないんです。

若い頃は、自分はコミュニケーションが得意じゃないから、と避けていたところがあったかもしれない。それで、いろんなチャンスを潰してきたことも、きっとあるはず。タイムマシンで戻れたら、叱ってあげたいところです(笑)。

 

自分の表現をどこで出すか。それは会社であってもいい

田中:チームではなく、一人でまた何かやりたいな、みたいに考えたりしませんか?

佐藤:いつも思いますよ。ただ、それは「一人」というより、「自分の表現をどういう場で出したいかな」というところですね。

クラシコムとしてはイレギュラーな例にはなってしまうのですが、2017年頃から「新ブランドを立ち上げてみたい」と青木さんとよく話していました。そうしたら、会社の成長や良いタイミングが来たことで、ユニセックスなラインも扱う「NORMALLY」が実現できたんです。そういう時の巡り合わせみたいなものもありますからね。

田中:「自分でやりたかったこと」と「クラシコムならできること」を重ね合わせてみたら、それが「NORMALLY」になった。実は、会社の中でもやりたいことができる可能性って、まだまだありますよね。

佐藤:全くゼロから自分で作り上げることも、時間があったらやりたい欲求はありますけれど、あまりこだわりはないです。今はかなり満たされていますし、僕にとっては恵まれた環境になっている感じがしています。

(つづく)

【写真】川村恵理

 

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