【エッセイ | あさってのモノサシ公開に寄せて】日記本を20年読み続け、本のなかで会っていたひとに、本当にお会いして

店長 佐藤

この人を知らなかったら、この人のつくるものに触れていなかったら、この人が書くものを読んでこなかったら今の自分は形成されていない。

そんな人が誰にとってもひとりかふたり、あるいはもっとかもしれませんが存在するんじゃないかと思います。

わたしにも、そんな人がいます。

そしてこの人の言葉に触れて来なかったら「北欧、暮らしの道具店」をつくる人生にはならなかったかもしれない、こういう場所にはならなかったかもしれない、そんなふうに思わせられる人がいるとして、そのひとりに間違いなく含まれるのがわたしにとっては料理家であり文筆家である高山なおみさんです。

わたしが高山さんを初めて知ったのは『日々ごはん』という高山さんの日々が綴られた日記本でした。

わたしは結婚してすぐの20代終わり頃、当時の高山さんは料理家であり東京・吉祥寺にあったレストランのシェフとして40代後半の日々を生きていらっしゃいました。

まだクラシコムという会社や「北欧、暮らしの道具店」というお店をつくるよりも以前のことです。

高山さんの文章が好きで、高山さんの飾らない正直な日常が好きで、料理が得意ではないわたしでも作ってみたいと思うレシピが好きで、そこから『日々ごはん』の最新刊が発売されるのを待ち侘び、その他のレシピ本やエッセイを買い続ける人生が始まりました。

あれから、20年。

今も変わらず書店の料理コーナーを必ずパトロールして、高山さんの新刊が出ていないかチェックする癖は続いています。

なんてことない日常が、実は、工夫と創作と冒険に満ちていること。

パッとしない日も、一日中布団の中で小説を読んだり映画を観ていれば、ゆっくりお風呂に浸かれば、明日は今日よりは元気になってるかもしれないこと。

大人になったって、子供みたいでいい日があること。

知らず知らずのうちに、自分が大事にしたい価値観のようなものに高山さんの言葉がミルフィーユのように織り重なっていきました。

今年のお正月休み明けのことです。

『日々ごはん』の出版社、アノニマ・スタジオ編集者・村上さんから1通のメールがクラシコム宛に届きました。

たまたまわたしが年始に高山さんの著書『暦レシピ』を読んだ感想をInstagramに投稿していたのですが、ご本人がその投稿を偶然見つけてくださったとのこと、そしてわたしと会って話をしてみたいというありがたい内容でした。

「 こんなことって起きるのですね……」

その時のわたしの反応は、喜びと驚きが入り混じり、このような感じでした。

10年以上の年月を共に働いてきた会社のスタッフもとても驚いてくれていました。

そうして『あさってのモノサシ』という番組によって、現在お住まいの神戸のご自宅を訪ね、高山さんと語らえる、共に時間を過ごせる機会をもらいました。

今回は二泊三日による収録だったので、これまでの『あさってのモノサシ』とは少し異なる構成や雰囲気でお送りする「神戸出張編!」となります。

わたしはこの文章を書く前に、ひと足先に出来上がった番組を観ているのですが、1時間ほどの尺の中で、わたしがどんどん高山さんに懐いて住人のようになっていく時間経過、二人の距離が縮まっていく様子がそこには映っていました。

20年にわたり文章やレシピを通じて接してきた方と一緒にご飯を作ったり、食材の買い出しに出かけたり、屋上でビールを飲んだり、食卓でワインを飲みながら語り合ったり。


いったい、何が、どうなって、こうなったのか?!こうした機会を人生のある地点でもらうことができたのか?!

わたしにもわけが分かりません。

でもひとつ言えるのは、本の中に居た高山さんは、高山さんでした。

だからわたしはこれからも安心して、また本の中に居る高山さんに会いに行くこともできそうです。

だって、そこに矛盾も脚色もないと分かったから。

そしてそのことは、わたし自身もいつの日か誰かに「本当だった」と言ってもらえる仕事をし続けたいと改めて願わせられる、ひと筋の光みたいなものになりました。

全ての撮影が終わったあとチームの皆に「お腹すいたでしょう」と夕飯を振る舞ってくださり、帰り際はマンションの下まで見送りに来てくれたのですが、車に乗る直前、暗闇の中でぎゅっと抱きしめてくれました。力いっぱいにギューっと。

そして身体を離したあとで「佐藤さん、へこたれないでね」とひとこと言ってくれました。「へこたれないでね」の中に、いろんなメッセージの色合いが見えました。

「はい、へこたれません」と、わたしは照れ隠しにちいさくガッツポーズをしながら答えました。

高山さんは私たちの車が出発するより前に、少女のような笑顔で両手を振った後くるりと向き直り、先にご自分の部屋に帰って行かれました。

見送るときの振る舞いまでが、20年読んで想像してきたひと、そのものだったのでした。


北欧、暮らしの道具店
店長 佐藤友子


▼Episode1本編はこちらから


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