【連載|生活と読書】第八回:続・本屋さんはすばらしい
CDやレコードを紹介するときに「名盤」という言葉がよくつかわれますが、文庫の棚はまさに「名盤」だらけです。100年以上前、200年以上前に書かれた作品でさえ、しれっと、そのなかに並んでいます。
ぼくが本屋さんを好きな理由はいくつもありますが、そのなかのひとつが、その時間の幅の広さです。2025年の現在から明治時代、もっとさかのぼれば紀元前に書かれた作品ですら、その空間のなかに容易に見つけることができます。
それらの本を読むと、むかしのひとも、いまのひとと同じようなことを考え、同じようなことを悩み、同じようなことを理想としていたことがわかります。
「そうか、やっぱりそうだよね」
そんなふうに感じるとき、本は100年前、200年前から届いた親密な手紙のようです。
ぼくが本屋さんにしょっちゅう立ち寄るのは、たのしみを見つけるためであり、たんなる暇つぶしのときもありますが、それ以外にも、「いま」という時間がつらいときも、この場所に足を運びます。
仕事がうまくいかないとき、なんだか気分が落ち込んで、すぐに家に帰りたくないとき、母とも、小さな我が子ともなにをしゃべればいいのかわからないとき、ぼくは本屋さんへ行き、うろうろとさまざまな本が並んだ通路を周回します。
そういう場所は、あるひとにとってはデパートの食品売場かもしれませんし、あるひとにとっては洋服屋さんかもしれませんし、あるひとにとってはドラッグストアかもしれません。
ぼくの場合はそれが本屋さん、あるいは古本屋さんで、30分ばかり、いろんな本を手に取っていると、こころが落ち着いてくるのを感じます。
毎回というわけではないですが、二回に一回はそうした場所と時間を与えてくれたことのお礼として、一冊の文庫本、あるいは雑誌をもって、レジに行きます。
その本はたとえ、すぐに読まれなくても、お守りのような存在として、しばらく自分の部屋で存在感をしめしています。
お、あるな。
朝起きたときや、仕事から帰ったとき、その本をちらっと眺めます。
ぼくにとって、本とはそういうものです。
まだ紹介していなかった棚がありますので、足早に紹介していきましょう。
まずは、本屋の花形ともいうべき雑誌棚。いまは雑誌が売れないとよくいわれますし、実際、ぼくも以前ほどには雑誌を買っていません。でもブラブラみていると、ほんとたのしいんですよね。いまの時代をもっともあらわしている棚ですから、表紙を飾るひとたちの輝いている顔を見ているだけで、なんだか元気が出てきます。
次に、実用書の棚。ぼくがあまり熱心にチェックしない棚ですが、いっときは子育ての本、料理書をよく見ていました。この棚にはたいていだれかがいて、そのひとたちが手にとっている本を見ると、ぼくも手芸や園芸をしてみたくなります。
そして、絵本の棚。下の子どもが八歳になったいまはもう、すこしなつかしい場所です。ああ、うちの子どもはあれが好きだったな、これをよく読んだな、そんなふうに思いながらサッと全体を眺めます。
最近は子どものためというより、自分のために見ています。
いつも気になるのは福音館の「こどものとも」や「かがくのとも」。古典の風格をまといながら、一方で、なにかあたらしいことを試みようとしているこの月刊誌がぼくは大好きなのです。
最後は漫画の棚。文字の本を読む元気はないけど、なにか本を読みたいなあと思っているときは迷わずここです。
定期的に買っている漫画はありませんが、友人がおもしろいといっていた作品や、SNSで話題になっている作品をチェックします。
ぼくは数年に一度、それまで読んだことのない連載作品をまとめて10冊とか20冊買うのですが、そのときの幸福度といったら。
行きつけのよい本屋さんをもつことは、かかりつけ医がいることとほとんど同じであると思います。
撮影協力:増田書店
『やこうれっしゃ』
西村繁男 福音館書店
あるベテランの編集者に、おもしろい本をつくるコツってなんでしょう? と尋ねたことがあります。そのひとは端的に、「編集しているときに最後までおもしろがるってことじゃないでしょうか?」といいました。すぐれた絵本のなかには、その「おもしろがる」視線があります。子どものようにおもしろがって、世界を眺めること。絵本は子どもだけでなく、大人にもたくさんのことを教えてくれます。
文/島田潤一郎
1976年、高知県生まれ。東京育ち。日本大学商学部会計学科卒業。アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指していたが、2009年に出版社「夏葉社」をひとりで設立。著書に『あしたから出版社』(ちくま文庫)、『古くてあたらしい仕事』(新潮文庫)、『父と子の絆』(アルテスパブリッシング)、『電車のなかで本を読む』(青春出版社)、『長い読書』(みすず書房)など
https://natsuhasha.com
写真/鍵岡龍門
2006年よりフリーフォトグラファー活動を開始。印象に寄り添うような写真を得意とし、雑誌や広告をはじめ、多数の媒体で活躍。場所とひと、物とひとを主題として撮影をする。
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