【40歳の、前とあと】早坂香須子さん 第2話:40歳の転機。腹でものごとを決める

ライター 一田憲子

hayasaka012写真 砂原文

メイクアップアーティストとして、多くのモデルや女優さんのメイクを手がける早坂香須子(はやさか かずこ)さん

第1話は、看護師からメイクアップアーティストへ転身。独立して仕事がない時代を経て、「女性をきれいにする」仕事の本当の意味に気づくまでのお話を伺いました。

今回は、40歳での大きな転機について語っていただきます。

 

30歳を過ぎてやっと「やりたい仕事」と向き合えた

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30歳を過ぎてやっと「自分がやりたい仕事」を手にした早坂さん。

早坂さん:
「20代は、作品を持って雑誌の編集部を回っていましたが、そういう営業を一切しなくなってから、仕事がどんどん来るようになりました。

撮影現場でいい仕事ができたら、必ず次に呼んてもらえるので、『今』を一生懸命やる、と決めました。

信頼しているスタッフや、モデルさんや女優さんたちと、いいチームでいい作品さえ作り上げれば、後先のことは考えなくていい。すると、絶対に誰かが『あのとき、かずちゃんよかったよね』と必ずどこかで声をかけてくれます。

そんなとき、 “自分でいる” ってことがとても大事

いい人でいようとすると、そばにいる人が疲れちゃうんですね。肩に力が入り過ぎていても、逆に相手をリラックスさせてあげられないんだな、ということも学びました。私が私でいると、モデルさんたちも、『気負わなくていいんだ』と安心するみたいなんです」

若い頃は、海外のファッション雑誌をスクラップしながら、外国人モデルを使ったモードなメイクをすることが夢だったのだと言います。

でも、仕事をしながら、日本人の女性が持っている美しさに気づくようになったそう。その頃から、早坂さんの心には、ひとつの核心が芽生えました。

それが、「すべての女性はきれいになれる」ということ。そして「『美しい』は誰でも持っている」ということ。

 

毎回「ゼロ」になって、相手と向き合う

hayasaka061△いつも持ち歩いているメイク道具。特に早坂さんの師匠yUKIさんが開発したメイクブラシは、計算されつくした毛量でメイクの仕上がりが均一になる優れもの。

仕事をするうえで、早坂さんが大事にしているもうひとつのことがあります。

それが、毎回ゼロになって相手と向き合うこと。

早坂さん:
「何回会っている子でも、毎日顔が違います。私はメイクって、ファッションの一部だと思っているので、ずっと同じメイク、同じ顔ってありえないって思うんです。

だから、その日その日でコンセプトを作って、相手と一緒に作り上げていきたい。

メイクは私がやってあげるものではなく、共同作業だと思っています。だから、いつも仕事に入る前は、何回会っていても、何十年一緒に仕事をしていても、先入観をすべてふるい落として、真っ白な気持ちで『おはよう!』って挨拶することにしているんです。それが、何より大事かな」

 

腹でものごとを決める。やりたいことは、とにかくやってみる。

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さらに大きな転機が40歳のときにやってきました。「腹でものごとを決めるってことに目覚めたんです」と早坂さん。

早坂さん:
「それまでの私はずっと他力本願でした。ああしたいな、こうしたいな、といっぱい夢があったけど、いつも『それ』がやってくるのを待っていた。

でも、自分がやりたいことをやる、というのは自分が腹を決めて動くか、動かないか、だと確信するようになったんです。それが、私の『40歳の、前と後』の大きな違いですね」

「腹でものごとを決める」って、いったいどういうことなのでしょう?

39歳での離婚をきっかけに、「今までやりたかったけど、できなかったことを、とにかくやってみる」ことにしたのだそうです。

例えば、髪型をベリーショートにしたり、引越しをしたり、アロマテラピーの資格を取ったり、歯科矯正を始めたり……。

それは、「自分にはできない」「似合わない」と思い込んでいた枠を外していく作業でもあったよう。そんな中で、ちょうど40歳を迎える頃、初めての著書を出すことになりました。

 

自分が動かなくちゃ、人生は動かない

hayasaka070△左が初めての著書「YOU ARE SO BEAUTIFUL」、右が今年出版した「100% Beauty Note」。

早坂さん:
「声をかけてくれた編集者も私も、ファッション雑誌は手がけてきたけれど、書籍を作るのが初めてだったんです。

向こうからたたき台をあげてもらうにしても、細かなところは、私にしかわからない……。自分が動かないと何も動き始めないんだということに、そのとき気づいたんですよね。遅いんですけど(笑)。

もう、やりたいことはすべてこの1冊に詰め込みましたね。コスメも、オイルも、ヘアケア用品も、私が使っていいと思うものをひとつずつセレクトし、体の内側から輝かせるための食事を紹介しようと、レシピもすべて考えました。

自分が動かなくちゃ、人生は動かない。この本を機に、人生への向き合い方が、がらりと変わりましたね」

人生の舵は自分が握っている。こんな当たり前のことに、私たちはなかなか気づくことができないのかもしれません。だから、ついうまくいかなければ人のせいにし、不満や悪口を言いたくなる……。

それが、早坂さんの言う「腹をくくる」ことができていない状況なのでしょう。

自分の歩く道を探して、20代、30代と試行錯誤し、どこか遠くにあると思っていた「路」が、実は自分の足元にあったことに気づく……。それが40歳という年齢のよう。

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早坂さんは、この初めての著書「YOU ARE SO BEATUIFUL」を出す少し前から、自分で企画をし、友人のプロデューサーと一緒にインナービューティーを軸に、トークイベントを始めていました。

早坂さん:
「自分で企画をして、たとえばアロマテラピストの大橋マキさんとか、料理家の有元くるみさんなど、会いたい人を呼んで、自分たちで集客をし、お土産も知り合いのブランドさんのお願いして……。そんなイベントを2か月に1度ぐらい開いていたんです」

そのうちに、伊勢丹新宿店から「同じようなイベントをやってください」と声がかかったり、オーガニックコットンブランド nanadecor(ナナデコール)のサロンで「一緒にやりませんか」と誘われたり。

早坂さん:
「私ね、自分で見つけたことを一人でも多くの人にシェアしたいんです。女性がきれいになるってことは、表面だけじゃないよ。体の内側のことも大事なんだよ。考え方も、食べることも、お手入れも、日々のことが大事なんだよって」

そんな経験を経て、あんなになりたかった「メイクアップアーティスト」だったのに、大事なのは「メイク」だけじゃない、と思うようになりました。

早坂さん:
「ツールはなんでもいいんですよ。コスメだろうが、本だろうが、トークイベントだろうが……。女性のために自分が知ったこと、感じたことをシェアして、みんながハッピーになれば、なんでもいいって思えるようになりました。これって、私にとっては自分でもびっくりするぐらいすごい変化なんです」

今では、メイクアップアーティストという枠を超えて、本を執筆したり、トークイベントを開催したり、コスメを開発したり。その仕事の幅をぐんと広げている早坂さん。

私たちは、自分が望んでいることが本当は何なのか、それを知るために生きているのかもしれません。

「本当の望み」が見えてきたら、肩書きや職種などの「外枠」はどうでもいいのかも。

そして、外側の殻をむいて、その中に残る芯をこの手で捕まえたとき、自分にとっての本物の幸せとは何なのかが見えてくる気がします。

(つづく)

 

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メイクアップアーティスト 早坂香須子

看護師として大学病院に勤務した後、メイクアシスタントを経て99年に独立。国内外のモデルや女優から支持されている。元看護師という医学的知識と観点から、インナービューティー、オーガニックプロダクトコンサルタント、香りなど、多岐にわたりビューティーの提案をしている。近著に『100% Beauty Life 早坂香須子の美容AtoZ』がある。

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ライター 一田憲子

編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ブログ「おへそのすきま」http://kurashi-to-oshare.jp/oheso/

 

▼早坂さんの著書はこちら。 

 

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