【40歳の、前とあと】早坂香須子さん 第2話:40歳の転機。腹でものごとを決める
ライター 一田憲子
写真 砂原文
メイクアップアーティストとして、多くのモデルや女優さんのメイクを手がける早坂香須子(はやさか かずこ)さん。
第1話は、看護師からメイクアップアーティストへ転身。独立して仕事がない時代を経て、「女性をきれいにする」仕事の本当の意味に気づくまでのお話を伺いました。
今回は、40歳での大きな転機について語っていただきます。
30歳を過ぎてやっと「やりたい仕事」と向き合えた
30歳を過ぎてやっと「自分がやりたい仕事」を手にした早坂さん。
早坂さん:
「20代は、作品を持って雑誌の編集部を回っていましたが、そういう営業を一切しなくなってから、仕事がどんどん来るようになりました。
撮影現場でいい仕事ができたら、必ず次に呼んてもらえるので、『今』を一生懸命やる、と決めました。
信頼しているスタッフや、モデルさんや女優さんたちと、いいチームでいい作品さえ作り上げれば、後先のことは考えなくていい。すると、絶対に誰かが『あのとき、かずちゃんよかったよね』と必ずどこかで声をかけてくれます。
そんなとき、 “自分でいる” ってことがとても大事。
いい人でいようとすると、そばにいる人が疲れちゃうんですね。肩に力が入り過ぎていても、逆に相手をリラックスさせてあげられないんだな、ということも学びました。私が私でいると、モデルさんたちも、『気負わなくていいんだ』と安心するみたいなんです」
若い頃は、海外のファッション雑誌をスクラップしながら、外国人モデルを使ったモードなメイクをすることが夢だったのだと言います。
でも、仕事をしながら、日本人の女性が持っている美しさに気づくようになったそう。その頃から、早坂さんの心には、ひとつの核心が芽生えました。
それが、「すべての女性はきれいになれる」ということ。そして「『美しい』は誰でも持っている」ということ。
毎回「ゼロ」になって、相手と向き合う
△いつも持ち歩いているメイク道具。特に早坂さんの師匠yUKIさんが開発したメイクブラシは、計算されつくした毛量でメイクの仕上がりが均一になる優れもの。
仕事をするうえで、早坂さんが大事にしているもうひとつのことがあります。
それが、毎回ゼロになって相手と向き合うこと。
早坂さん:
「何回会っている子でも、毎日顔が違います。私はメイクって、ファッションの一部だと思っているので、ずっと同じメイク、同じ顔ってありえないって思うんです。
だから、その日その日でコンセプトを作って、相手と一緒に作り上げていきたい。
メイクは私がやってあげるものではなく、共同作業だと思っています。だから、いつも仕事に入る前は、何回会っていても、何十年一緒に仕事をしていても、先入観をすべてふるい落として、真っ白な気持ちで『おはよう!』って挨拶することにしているんです。それが、何より大事かな」
腹でものごとを決める。やりたいことは、とにかくやってみる。
さらに大きな転機が40歳のときにやってきました。「腹でものごとを決めるってことに目覚めたんです」と早坂さん。
早坂さん:
「それまでの私はずっと他力本願でした。ああしたいな、こうしたいな、といっぱい夢があったけど、いつも『それ』がやってくるのを待っていた。
でも、自分がやりたいことをやる、というのは自分が腹を決めて動くか、動かないか、だと確信するようになったんです。それが、私の『40歳の、前と後』の大きな違いですね」
「腹でものごとを決める」って、いったいどういうことなのでしょう?
39歳での離婚をきっかけに、「今までやりたかったけど、できなかったことを、とにかくやってみる」ことにしたのだそうです。
例えば、髪型をベリーショートにしたり、引越しをしたり、アロマテラピーの資格を取ったり、歯科矯正を始めたり……。
それは、「自分にはできない」「似合わない」と思い込んでいた枠を外していく作業でもあったよう。そんな中で、ちょうど40歳を迎える頃、初めての著書を出すことになりました。
自分が動かなくちゃ、人生は動かない
△左が初めての著書「YOU ARE SO BEAUTIFUL」、右が今年出版した「100% Beauty Note」。
早坂さん:
「声をかけてくれた編集者も私も、ファッション雑誌は手がけてきたけれど、書籍を作るのが初めてだったんです。
向こうからたたき台をあげてもらうにしても、細かなところは、私にしかわからない……。自分が動かないと何も動き始めないんだということに、そのとき気づいたんですよね。遅いんですけど(笑)。
もう、やりたいことはすべてこの1冊に詰め込みましたね。コスメも、オイルも、ヘアケア用品も、私が使っていいと思うものをひとつずつセレクトし、体の内側から輝かせるための食事を紹介しようと、レシピもすべて考えました。
自分が動かなくちゃ、人生は動かない。この本を機に、人生への向き合い方が、がらりと変わりましたね」
人生の舵は自分が握っている。こんな当たり前のことに、私たちはなかなか気づくことができないのかもしれません。だから、ついうまくいかなければ人のせいにし、不満や悪口を言いたくなる……。
それが、早坂さんの言う「腹をくくる」ことができていない状況なのでしょう。
自分の歩く道を探して、20代、30代と試行錯誤し、どこか遠くにあると思っていた「路」が、実は自分の足元にあったことに気づく……。それが40歳という年齢のよう。
早坂さんは、この初めての著書「YOU ARE SO BEATUIFUL」を出す少し前から、自分で企画をし、友人のプロデューサーと一緒にインナービューティーを軸に、トークイベントを始めていました。
早坂さん:
「自分で企画をして、たとえばアロマテラピストの大橋マキさんとか、料理家の有元くるみさんなど、会いたい人を呼んで、自分たちで集客をし、お土産も知り合いのブランドさんのお願いして……。そんなイベントを2か月に1度ぐらい開いていたんです」
そのうちに、伊勢丹新宿店から「同じようなイベントをやってください」と声がかかったり、オーガニックコットンブランド nanadecor(ナナデコール)のサロンで「一緒にやりませんか」と誘われたり。
早坂さん:
「私ね、自分で見つけたことを一人でも多くの人にシェアしたいんです。女性がきれいになるってことは、表面だけじゃないよ。体の内側のことも大事なんだよ。考え方も、食べることも、お手入れも、日々のことが大事なんだよって」
そんな経験を経て、あんなになりたかった「メイクアップアーティスト」だったのに、大事なのは「メイク」だけじゃない、と思うようになりました。
早坂さん:
「ツールはなんでもいいんですよ。コスメだろうが、本だろうが、トークイベントだろうが……。女性のために自分が知ったこと、感じたことをシェアして、みんながハッピーになれば、なんでもいいって思えるようになりました。これって、私にとっては自分でもびっくりするぐらいすごい変化なんです」
今では、メイクアップアーティストという枠を超えて、本を執筆したり、トークイベントを開催したり、コスメを開発したり。その仕事の幅をぐんと広げている早坂さん。
私たちは、自分が望んでいることが本当は何なのか、それを知るために生きているのかもしれません。
「本当の望み」が見えてきたら、肩書きや職種などの「外枠」はどうでもいいのかも。
そして、外側の殻をむいて、その中に残る芯をこの手で捕まえたとき、自分にとっての本物の幸せとは何なのかが見えてくる気がします。
(つづく)
メイクアップアーティスト 早坂香須子
看護師として大学病院に勤務した後、メイクアシスタントを経て99年に独立。国内外のモデルや女優から支持されている。元看護師という医学的知識と観点から、インナービューティー、オーガニックプロダクトコンサルタント、香りなど、多岐にわたりビューティーの提案をしている。近著に『100% Beauty Life 早坂香須子の美容AtoZ』がある。
ライター 一田憲子
編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ブログ「おへそのすきま」http://kurashi-to-oshare.jp/oheso/
▼早坂さんの著書はこちら。
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