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【金曜エッセイ】あ、それ忘れてました — 今回の忘れものは「赤」(文筆家・大平一枝)
文筆家 大平一枝
第二話:赤を忘れる
さっそく読者のみなさんから「自分の忘れていたもの」について、お便りをいくつかいただいた。いわく、“娘をかわいいと思う気持ち”、“スカートをはくこと”などなど。どれも、共感できる内容で、私も思い当たる節だらけ。みんな、いろんなものを忘れながら、生きているのだなあと思った。
今回は、スカートから思い出したこんなお話を。
私は長らく、赤を忘れていた。
赤い洋服、赤い靴、赤い口紅、赤いバッグ。そんな色が似合う年齢をとうに過ぎたと思うし、この年で身につけたら、なんだか頑張りすぎている人のように見えて恥ずかしいという気持ちのほうが強かったからだ。
ところがあるとき、洋服の展示会で、プレスをしている知人に
「大平さん、たまにはこういう色いかがですか」
と、赤いブラウスを勧められた。朱色に近い赤一色である。
「これくらいの色。着て欲しいなあ、大平さんには」とつぶやいた彼女の言葉が、なんとなく心に残った。
自分はいつから赤い服を着なくなったろうと振り返ったが、思い出せない。クローゼットは白、黒、ベージュばかりだ。
派手すぎないだろうか、浮かないだろうかと心配しながら、おそるおそる胸の前にあて、全身を鏡に映してみた。
と、気のせいか顔がぱっと明るくみえた。撮影時のレフ板のごとく、赤い布地が反射して顔色のトーンを一段上げてくれるようだった。
「あ……」
けっこういいかもしれない、と心の中で思った。
わずかに墨色がかった落ち着いた明度の朱色が、意外にしっくりくるのだ。
これまで仕事と子育ての両立に手を取られ、なかなか自分にかまう時間がなかった。新しいブランドや色味に挑戦し、あれこれ試行錯誤する時間もないので、いつも同じ店で似たようなアイテムを買ってしまう。それが無難だからだ。
だが、子育ても一段落し、今の自分には時間的余裕もある。食わず嫌いをせずに、新しい色に挑戦してもみようかなと思いたつ。
そしてブラウスを買った。同色のワンピースも追加したのは、「似合いますよ」という同行の編集女子の言葉に気を良くして、調子に乗ったからだ。
結果、ブラウスもワンピースも、この夏、人前に出るときや、仕事での会食などあらたまった場所で一番登場回数が多かった。
ワンピースというのは誰が着ても、その場が華やかになるし、招いた方は嬉しく思うものなのだなと感じる。また、赤い服をまとうと、なんとなく気持ちも元気になるようで、メイクやヘアスタイルにもこだわりたくなる。それに合う新しいアクセサリーや靴も、気にして店頭で探すようになり、買い物のテンションも上がる。
新しい色を着るというとるに足らぬささやかな挑戦が、この夏、私の毎日に小さな張り合いをもたらしてくれた。
派手すぎると思い込んでいた赤が、まさかこんなに日々に活気を与えてくれようとは。
活気の原動力はおそらく、「この赤に、負けない自分になろう」という気持ちである。
シンプルでナチュラルが一番と思い込んでいた時期を一巡して、また女性らしいもの、明るく華やかなものに心惹かれる人生の季節がやってきたことを嬉しく思った。
おしゃれは楽しいと教えてくれた赤い服2枚は今、暗かったクローゼットのなかでひときわ目立っている。
扉を開けるたび目に飛び込むそれを見ると、今までだめだと思い込んでいたけれどじつはすてきなものがまだ他にもあるかもしれないと、少しわくわくする。来年も、あれを着て、赤に負けない自分でいられたらと願っている。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『dancyu』『Discover Japan』『東京人』等。近著に『男と女の台所』(平凡社)、『あの人の宝物』『紙さまの話』『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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