【終わりは、はじまり】後編:終わった後に残るのは「穴」?それとも「自由」?(n100デザイナー・大井幸衣さん)
商品プランナー 斉木
何かをはじめるには、きちんと「終わり」と向き合うことが大切なんじゃないか。そんな思いから、終わりの渦中にいる方に話を聞きにいった今回の特集「終わりは、はじまり」。
前編では4月30日をもってブランドを終了する「n100(エヌ ワンハンドレッド)」の大井 幸衣(おおい・ゆきえ)さんに、これまでの経緯やどんなことを考えてきたのかを伺いました。
つづく後編では、大井さんが「終わり」をどうとらえているのか、そしてこれからの「はじまり」について聞いていきます。
60歳で初めて手にした「何もしない」という選択肢
4月30日のブランド終了に向け、佳境を迎えている今が一番楽しいと話す大井さん。寂しくはないんですか……?
大井さん:
「どうして? 今が一番ワクワクしてますよ!
わたし、これからのことは何も決めてないんです。n100を終えるということを決めているだけで、5月1日からは何をしてもいい。60歳になってようやく『何もしない』という選択肢を得たんだと思ったら楽しくって」
▲大井さんがモットーとしている「貯蓄で自立」というフレーズが印字された切手を額装している
大井さん:
「22歳からずっとアパレルの仕事をしてきました。20代は舐められてばかりで悔しくて、30代はがむしゃらに働いて、40代でフリーランスになって生まれて初めて貯金をして、50代でn100をはじめて。
ずっと働いてきたから、思う存分何かをするってことができなかったんです。そのためには、時間と、ある程度のお金と、健康な身体が必要でしょう。いまならそれがあると思ったら、すごく自由だなって思います」
本当の終わりは、身体が消えてなくなるとき
大井さん:
「それに、n100は終わるけれど、このブランドを通して伝えたかった想いや、わたしが得た経験はまた違うかたちで続いていくと思うんです。本当の終わりって、わたしの身体が消えてなくなるときだと思うから。
もし、アパレルに限らず何かをやりたいと思う人が、わたしの知識や経験をエンジンにしてくれるなら、その人のために時間とお金を使ってもいいと思っています。何もしないのもありだし、いま持っている何かを誰かのために使うのもありだなって。
でもやっぱり自分で物をつくるのはすごく好きだから、何かやるかもしれないですね。何をするんでしょう? 自分でも楽しみです」
大井さんの頭は「これから」でいっぱい
ところで、大井さんは無類の「引っ越し好き」と仲間内では有名だそうで。このインタビューは、そんな大井さんが去年の秋に4年がかりで建てたマイホームで行われました。
わたしは、仕事もひと段落して、ここが大井さんの終の住処になるのだと思いました。だから「これでもう大好きな引っ越しができなくなっちゃいますね」というと、大井さんは「また引っ越しするけどね〜」と返したのです。
大井さん:
「60歳で家を建てたと話すと、『ついに大井さんはすごろくの最後のサイコロを振って、これであがりなんですね』と言われるんです。でも、もう引っ越ししないって断言はできない。だって、これから年齢を重ねて、自分の身体や環境がどう変わるかなんてわからないでしょう?
次は京都に、全部が自分の手に届くくらいちいさな平屋もいいななんて、今から頭の中で設計図を描いたりなんかしちゃってます」
終わりは、はじまり。
インタビューの間中、わたしは「終わるのが怖い」と言い、その度に大井さんは「それが楽しいんじゃない!」と言いました。わたしは、何かが終わって、そこにぽっかりと空いた「穴」を見るのが怖かったのだと思います。
その穴を、前とそっくり同じもので埋めたい。でも、そんな代替物がすんなりと見つかることは人生ではそうそうなく、だから、できることなら終わりなんて永遠に来てほしくない。
その「穴」を、大井さんは「自由」と呼びました。そして、それが大きければ大きいほど楽しいと。
自分で区切りをつけようとしなくても、人生には否応なく訪れる節目があり、どうしようもない穴があいてしまうことがあります。でもそれを何で埋めるかは自分次第。「何もしないという選択肢だって、あるんじゃない?」と大井さんは教えてくれました。
今でもやっぱり終わりは寂しいし、できれば穴なんてあいてほしくない。でも、もし次ぽっかりとあいてしまったときには、そこが「はじまり」なんだと、ほんの少しだけ前を向ける気がしました。
(おわり)
【写真】神ノ川 智早
もくじ
大井 幸衣(おおい ゆきえ)
1957年静岡県生まれ。1980年よりカルバン・クラインやマーガレット・ハウエルなどのブランドでデザインや商品企画に携わる。その後フリーランスを経験し、2007年にニットブランド「n」を立ち上げ。2008年「n100」をトータルアパレルブランドとして再スタート。2018年4月30日をもって解散。
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