【短編小説 |金曜日に花束を】第二話:曇り空のあとに
kim(UHNELLYS)× 花屋 ŒUVRE
第二話:曇り空のあとに
Written by kim(UHNELLYS)/ Bouquet by ŒUVRE
玄関を開けると、配達のお兄さんが大きな箱を持って立っていた。心当たりがなくて伝票を確認すると、差出人はミズキだった。
甘酸っぱい青春を毎日一緒に過ごした私の親友。バリバリ働く彼女に何となく遠慮して、いつからか連絡を取るのをためらうようになった。最近は全く会っていない。
受け取りにサインをして、箱を開けてみると、それは大きな花束だった。
「うわあ!」と思わず声が出る。手にとって、目をつむり花の香りをゆっくりと吸い込む。この部屋に花の香りがするのはすごく久しぶり。花瓶をどこにしまったかも思い出せないほど。
花束に結ばれていたのはバースデーカード。そこで気づいた。今日は私の誕生日だった、と。
あれからちょうど一年。また誕生日がやってきた。去年はあの花束のおかげで幸せな気持ちで過ごすことができた。
その後、ミズキと数年ぶりに会うことになって、顔を見た瞬間お互い泣き出してしまった。「ありがとう、なんかごめんね」と言い合いながら、あの頃のように心がゆっくり溶け合うのを感じた。
ミズキは仕事のできそうな大人の女性になっていて、時折疲れた表情をするのが気になったけど、中身は昔と変わらず穏やかで優しかった。
それから私は部屋に花を飾るようになった。花屋さんで買うときもあれば、子供との散歩で小さな花を摘んでくるときもある。花があるだけで、少しだけ生活が色づく気がする。
花を飾っていることに、夫は気づいているのだろうか。
夫とすれ違い始めたのはいつだろう。お互い育児や仕事に夢中だった。それ以外にも考えられる理由は沢山ある。でもはっきりとは分からない。
いつからか携帯をずっと眺めている夫を止めなくなった。「行ってきます」の声を背中で聞くようになった。今も変わらず大好きなのにうまく伝えられない。もうすぐ24時。子供の静かな寝息が聞こえる。このままで良いのかな、とぼんやりとしながら私はまた年をとる。
すると玄関が乱暴に開いた音がした。いつもと様子が違ってバタバタしている。どうしたんだろう、と思っていると、急ぎ足で夫が部屋に入ってきた。手には大きな花束を抱えている。
「ああ間に合った、誕生日おめでとう!」腕時計を見ながら彼は言った。私は驚いてしまって言葉が全然出てこない。ただ彼に抱きついて思いっきり泣き続けた。
「去年友達に花束をもらって、あんなに嬉しそうだったからさ。なんか悔しくてね」。返事をしたくてもまだ頷くしか出来ない私を、彼は強く抱き締めてくれた。
このままでも良いのかも。花の香りに包まれながら、私はそう思った。
(つづく)
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