【訪ねたい部屋】第3話:少しくらい不便でもいい。「10年後、今よりもっと家が好き」と感じるためにできること
ライター 藤沢あかり
友人の部屋を訪れたときの、わくわくするような気持ち。そこには、「その人らしさ」を知る嬉しさや楽しさがあるのかもしれません。
お宅を訪問し、インテリアを拝見しながら「その人らしさ」を紐解く特集「訪ねたい部屋」を全3話でお届けしています。
イラストレーターの大森木綿子さんのお宅をご紹介している3話目では、住み続けて10年の節目を迎えたこの家への思いを伺いました。
10年経っても未完成。それが家づくりのおもしろさ。
▲ガラス張りのバスルーム。壁は居室と同様にモルタル仕上げです。
今年ちょうど10年目を迎えたというこの家で、何かこれから手を加えたいところはありますか?と大森さんに尋ねてみました。
すると思わぬ答えが。
大森さん:
「実は洗面所にもお風呂場にも、まだミラーがないんです。夫は、すぐ横のトイレにある鏡でヒゲを剃っている状態で(笑)」
▲洗面所は、1階の玄関脇に。ニッチのような収納棚は、実は玄関と洗面所を隔てる靴箱。
気に入ったものがなかなか見つからなくて、と笑う大森さんですが、この家に越してきて10年。それは、大森さんが住まいに求めるものを「じっくり」探しているからにほかなりません。
▲洗剤やタオルなどのストックも多くは持たず、とはいえ少ない数にこだわりすぎず。住まいの大きさに合わせて、無理なく心地よく暮らせる数を保っています。
必要だと感じたその瞬間に、指先タッチひとつで玄関まで届く今の時代。その便利さや手軽さも魅力的ですが、「欲しい」と「手に入れる」の間にある時間を今より少しだけ大切にすることで、暮らしの質は大きく変わるかもしれません。
使いやすさに素直に従ったら、こんな配置に
大森さんの自由な発想は、ちょっとした日用品の配置にも潜んでいました。
家電やキッチン雑貨を置く、コンロやシンク下のスペース。
オーブンや食洗機に混じって、仕事に使うプリンターもここにしまっています。
さらには、アイロンやドライヤーもキッチンにしまってありました。
▲シンク下のスペースに顔をのぞかせるアイロン。となりの木箱には、ドライヤーがしまってあります。
大森さん:
「プリンターは、ダイニングで作業をしているので、ここにあると都合がいいんです。ドライヤーも洗面所で使うよりも便利なので、こっちに持ってきました」
暮らしの中で、ちょっとした違和感や些細な気づきに耳を傾けると、収納は自分たちらしく、どんどん進化していきます。
▲ダイニングテーブルの上に置いた箱の中には、色鉛筆や絵の具などの画材を。
▲このフロアの収納スペースは、キッチン脇、階段の踊り場にあるこの納戸のみ。器や食品のストック、実用品である冷蔵庫をここに収めることで、お気に入りだけが目に触れるキッチンを叶えました。
少しくらい不便だっていい。「好き」のアンテナを信じて
「多少不便でも、自分たちが好きだと思えるもののほうがいいのかも」と大森さん。
不便をカバーする小さな工夫やこだわり。その重なりがその人らしさを生み、どこの誰でもない唯一無二のオリジナルな住まいを生み出します。
大森さんのお宅に入ったとき感じた、テイストに縛られない自由さと、そこかしこに息づく生活感。その答えが少しだけわかった気がしました。
LDKが狭いから、北向きだから、キッチン収納があまりないから。
住まい探しをするとき、ついつい減点方式にしてしまいがちですが、大森さんのように、まずは「好き」の優先順位を決めてみるのはどうでしょう。
自分たちの気持ちに素直に従いながら始まった、大森さんの住まいづくり。
「好き」を信じて選んだキッチンや壁のモルタル、床や家具の無垢材は、生活の中の小傷やシミもスパイスにして、味わい深く育ってきました。
「10年が経ち、今も楽しく暮らせているから良かった、って思います」と話すその表情は、とてもリラックスしていて、我が家への愛着に満ちていました。
(おわり)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
大森木綿子
「心に浮かんだことや身近なもの」をテーマに、柔らかさと透明感に満ちたタッチで描くイラストレーター。紙雑貨やテキスタイル、書籍の装丁、パッケージデザインなど、暮らしをそっと彩る作品を生み出している。2018年11月20〜30日まで、千葉県習志野市のギャラリー『and R』にて企画展を予定。
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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