【ありのままでいたくても】第1話:どうしてわたしは、強がってしまうんだろう。
編集スタッフ 奥村
きっかけは、銭湯でした
いつもより早く夕飯を終えた日曜の夜。寝るにはまだ時間があって、ふと近所の銭湯へ行こうと思い立ったわたし奥村。
久しぶりだったこともあって、少し緊張しながら、服を脱いで浴場へ。顔も名前も知らない人が集まるちょっと不思議なその場所で、あったかい湯船に浸かったとき、なんだか楽になった気がしました。
人前でも「素の自分」でいられるんだ
メイクを落として、服を脱いで、湯船に浸かる。そこにいるのは、28歳、編集業の会社員という肩書きのない素のわたしでした。
他の誰かがいる場所でも、素の自分でいられる。そのことに安堵しているんだと気づいたのです。
それは同時に、いつも人前で虚勢をはっていた自分に気づくことでもありました。
どうして強がってしまうんだろう
どうしてわたしは、強いふりをしてしまうんだろう。銭湯に行ってから考えました。
そんな時、手に取ったのが、以前当店でメルマガエッセイを書いてくださっていた詩人・文月悠光(ふづき ゆみ)さんのエッセイ『臆病な詩人、街へ出る。』
この本には、詩人という肩書きに対する期待やプレッシャーに、葛藤や不安を抱いてきた文月さんの心境が綴られています。
共感しながら読みすすめるうち、きっと彼女も、虚勢をはらなければいけない場面を経験してきたのではないかと感じました。
だとしたら、彼女はそんな自分とどう折り合いをつけているのだろう。
今回の特集では、銭湯を舞台に文月さんにお話を聞きました。
▲詩人・文月さん(左)とわたし奥村
「わたしは、◯◯らしくない」という葛藤
10代の頃、史上最年少で文学賞を受賞し、詩人としての活動をはじめた文月さん。
『臆病な詩人、街へ出る。』では、自分のことを臆病という彼女が、苦手なことに挑戦しながら自身の臆病さと向き合っていく、東京でのエピソードが綴られています。
文月さん:
「詩人って聞いたとき、どんなイメージを持ちますか? たとえば丁寧で落ち着いた生活を送っているとか、人生を達観していて動じないとか……わたしの中ではそんなイメージがありました。
だけど、実際の自分はそんな風に完璧じゃありません。
執筆に没頭していると暮らしがおろそかになるし、締め切り前はいつもバタバタ。人見知りなので社交の場は苦手だし、人と接して傷ついたり、モヤモヤしたりすることも多い。
そんな自分が、詩人という肩書きを背負っていることに、どこか後ろめたさのようなものを感じていて。
そんな臆病で平凡なわたしが、自分なりに思うことを書いてみようと思ったのが、エッセイのきっかけでした」
臆病なだけでは、生きていけないから
エッセイを読んでわたしが想像していた文月さんは、どこか大人しく心細そうなイメージ。
けれど実際にお会いしてみた彼女は、率直に言えば「臆病」には見えず……明るく、堂々としていて、それが意外でした。
文月さん:
「臆病と書いているけれど、中にはわたしのことを全然臆病じゃないと感じる方もいるかもしれません。実際、トークイベントに来られたお客さんから『臆病に見えないですね』と言われたことも何度かあります。
自分にとっては、人前で不器用な姿をさらす方が怖いので、せめて仕事の場ではしっかりした人のように見せなければと。
それも、人に嫌われるのが怖いせいでしょうね。つい人の目を気にしてしまいます。でも、詩人でフリーランスという立場上、自分の意見を代弁してくれる人はいないので、ときには覚悟を持って意見を主張することもある。
臆病で、一方では強がり。矛盾しているようだけど、そのどちらもがわたしなんです」
傷つきたくないから、強いふりをしていたのかも
臆病だけど強がり。それは、わたしも同じです。
本当の自分は傷つきやすい。でも、大人として生きていくには、何にでも傷ついてはいられないから、ちょっとしたことはやり過ごして、今までに何度も傷ついてないふりをしてきました。
強がる自分の裏には、いつも弱い自分がいて。そこに目を向けるのが怖かったから、わたしは強いふりをしていたのかもしれません。
第2話ではその気持ちについて、もう少し深く掘り下げてみました。
(つづく)
【写真】濱津和貴
【撮影協力】吉祥寺 弁天湯(東京都武蔵野市)
もくじ
文月 悠光
詩人。北海道出身。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年生のときに発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞する。近著では、2018年に自身2作目のエッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』を出版。
▼文月悠光さんの書籍はこちら
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