【57577の宝箱】「可愛い」は愛を固めたものなのです お守りみたいに持っておくべき

小説家 土門蘭

保育園に次男を送りに行ったとき、隣のクラスの女の子のヘアゴムに目を奪われた。
両耳のところで結ばれている髪には、ピンクや紫の飾りがついている。まるで透き通った飴玉みたいだと思い、つい「そのゴムかわいいね」と声をかけた。女の子は突然声をかけられて驚いていたけれど、すぐに嬉しそうな顔になり「あのね」と言った。
「このリュックも買ってもらった」
そして、くるっと背中を見せてくれる。同じくピンク色のリュックサックには、マイメロディが大きく描かれていた。
「マイメロ、かわいいね。わたしも欲しいなぁ」
そう言うと、女の子はまた嬉しそうに笑った。
パタパタと駆けていく彼女の後ろ姿を見ながら、いいなぁ、と心のうちでつぶやく。
彼女はきっと、私が本当にそのリュックを羨ましがっているとは、多分思ってもいないだろう。

§

最近になって、自覚できてきたことがある。
それは、自分はかわいいものが大好きだ、ということだ。
ピンクや赤やうす紫、ひらひらしたスカートやレース、キラキラした石やビーズ、サンリオやセーラームーンなどのキャラクター。そういった乙女チックなものが、わたしはすごく好きだ。

でも、実際のわたしはそういったものを持っていない。
普段はパンツスタイルだし、バッグや財布なども装飾の少ないシンプルなものばかり。部屋の中に、キャラクターグッズやぬいぐるみも存在しない。だからよほど近しい人ですら、わたしがかわいいもの好きなことを知らないと思う。

子供の頃はちがっていた。
リカちゃん人形やぬいぐるみをいっぱい持っていて、いちご柄のワンピースが好きで、長い髪はいつも大きな赤いボンボンのヘアゴムで結んでいた。
でも小学校中学年くらいから、そういったかわいいものと距離を置くようになった。どんどん背が高くなる自分に、友人がある日「かわいいものよりかっこいいもののほうが似合うよ」と言ったのだ。ピンクより紺や黒が似合うし、スカートよりパンツが似合うし、髪は短いほうが似合う。厚意で言ってくれたことだし、自分でも気づいていたので、傷ついたりはしなかった。心のどこかで、かわいいものは卒業しなければ、と思っていたのだろう。それからわたしは、自然とかわいいものから離れていった。

でも、大人になって息子たちが生まれ保育園に付き添いで行くうちに、自分がそこで出会う幼い女の子たちの持ち物に、つい目を奪われてしまうことに気がついた。ラメのビニルサンダル、エナメルのポーチ、アクリルのキーホルダー。
見るたびに「いいなぁ」と思う。最初は単なる懐かしさかと思っていたのだけど、そのうちとうとう観念した。やっぱりわたしは今でも、かわいいものが大好きなのだ。

そう認めると同時に、「もう大人なんだから」とたしなめる自分もいた。もう大人なんだから、年相応のものを身につけなさいよと。
でも「もう大人」だから何だろう。むしろ「もう大人」だからこそ、自分がかわいいと思うものを自分に買ってあげることができるんじゃないか。
そう考え直した瞬間、わたしの中の幼いわたしが、嬉しそうに笑ったような気がした。

§

年下の友人で、セーラームーンが好きでグッズを集めている女の子がいる。
先日彼女にお願いして、新作のセーラームーングッズを買ってきてもらった。彼女はわたしがセーラームーンを好きだったことに驚いていたけれど、快く承諾してくれた。

後日、彼女からそのグッズを受け取ったとき、わたしはすごくドキドキしていた。紙袋からおそるおそる出し、手に取って見つめる。それはとても愛らしいバッグチャームで、金色のハートや大振りのパール、中央にはカッティングされた透明なピンクの石が入っていた。自分の両手に収まったそれを見ていたら、心がくすぐったくなった。

「すっごくかわいいね」
おずおずと言うわたしに、彼女はにっこり笑い返事する。
「すっごくかわいいですよね」
おかしな話だけど、「かわいい」と共感してもらえたことがなんだかすごく嬉しかった。

「本当はずっとかわいいものが好きだったんだって、最近やっと気づいたんだ」
照れながらそう言うと、彼女は少し真面目な顔をしてこんなことを言った。
「私、かわいいものには人を癒す力があるって信じているんです」
そしてわたしの手元を指差す。彼女の爪はきれいなピンク色だった。
「かわいいものに触れていると、なんか元気出ませんか?」
出る、とわたしは即答した。ですよね、と彼女も力を込めて言う。
「だからこれからも、蘭さんがかわいいと思うものをそばに置いて愛でてください」

そのとき「可愛い」は「愛することができる」と書くのだということに気がついた。温かな気持ちが身体中を巡って、優しい気持ちになるようだ。わたしはかわいいものを手に入れて、もう一度愛することができるようになったのかもしれない。

嬉しいな、と呟いたのは、幼いわたしだったような気がする。

 

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。


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