【エッセイラジオ】第41夜:齋藤 美和さんのエッセイ「終わりを見据えているからこそ、 今を大切に」(読み手 スタッフ青木)
編集スタッフ 鈴木
今日も1日おつかれさまでした。
皆さんこんばんは。日曜日の20時、いかがお過ごしでしょうか?
週末でリフレッシュされた方や、明日からの一週間に備えて気持ちを整えている方、思い思いの時間が流れていることと思います。
そんな誰もがほっと一息つきたい時間に「おつかれさま」の気持ちを込めて、「エッセイラジオ」をお届けします。
思うようにいかなかった昼間の出来事や、いつも心の端に引っかかっている悩み事など。生活していると日々色々とありますが、このラジオを聴いているその時間だけは、一旦それらを手放して、ゆったりと声に身を任せていただけたら幸いです。
今夜のエッセイの書き手は、「しぜんの国保育園」園長・齋藤美和さん。読み手は、当店スタッフの青木です。
ではさっそく、今夜のエッセイの世界へ、どうぞいってらっしゃいませ。
終わりを見据えているからこそ、 今を大切に
齋藤 美和
わたしの働いている保育園には、
長い廊下がある。
グリーンのカーペットが敷いてあり、
その道を親子で手をつないで歩いているのを
よく事務所からながめている。
親子が手をつないで歩いている姿を見るのが
とても好きだ。
最初は抱っこで登園してきた子が、
だんだんと手をつないで歩くようになる。
赤ちゃんの爪の小ささ、薄さ、
甘いにおい、つかまり立ち、はいはい、
どれも今しかない姿だ。
その瞬間を愛おしく感じる。
それと同時に、
子どもと手をつないでいられる時期は、
もしかしたらそんなに長い時期では
ないのかもしれないなとも思う。
わたしも、子どもも
別々の「今」を生きる存在だ。
お寺に嫁いで、14年になる。
嫁ぐ前に、祖父、祖母、父を亡くし、
またわたし自身も出産で出血多量になり
生死をさまよい、
子宮を摘出する手術を受けた。
集中治療室で目が覚めた時、
家族、親戚が集まっていて
まるでお正月みたいだと思ったのを
覚えている。
出産からの手術で、
「息子が生まれた喜び」と
「自分の命が消えそう」という
現実に直面した。
私と息子、そして家族。
自分の中の「命」というものの輪郭を
感じたのだった。
保育園は山を越えたところにあり、
わたしも毎日山道を歩いて出勤している。
歩いていると、ハクビシンが横切ったり、
カエルが飛び跳ねたり、
蜘蛛の巣に引っかかったり、
わたしの方が自然の中に
お邪魔している気持ちになる。
行く道中にはお墓もあり、
日々歩いているとお墓の中から、
みなさんの「いってらっしゃい」という声が
聞こえてくるような気がする。
そんな環境もあってか、
わたしもいつかあちら側の方へ
行くのだろうなという気持ちは常にある。
ただ、今を生きる私はその道の途中で、
日々のことは通過点でしかない。
そう思うと、「わたし」という
この愛おしい命を大事にしたい、
わたしの、そして
あなたの命をかわいがりたい、
そんな風に思えてくる。
山道を登り、
子どもたちの畑を通って行くと、
保育園が見えてくる。
真っ白い、何にも染められていない園舎。
「おはよう」子どもたちに声をかける。
今日もあなたに会えて、
私はとてもうれしい。心の底から。
今日と明日が、
どうか続いていきますように。
いかがでしたか?
ほんの数分ではありますが、心の緊張がほどけたり、すうっと眠りに入るきっかけとなれたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回の配信も、どうぞ楽しみにしていてくださいね。
エッセイラジオを通して、このささやかなエールが届きますように。それでは、おやすみなさい。
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