【57577の宝箱】目に映る世界は選ぶこともできる 二時間だけは楽しい夢を

文筆家 土門蘭


週に1度、子供たちと一緒に映画を観ている。

きっかけは、10歳の長男が「お母さんと一緒に映画を観たい」と言い出したことだった。
ある時一緒に『アダムス・ファミリー』を観ていたのだけど、
「この映画、子供のころ大好きだったなぁ」
と呟いたら、
「そういう映画をもっと教えてほしい」
と言われたのだ。「お母さん、映画よく知ってるもんね」と。

私は一人っ子で鍵っ子だったので、子供の頃、遊び相手がいない時によく暇を持て余していた。そういう時によく観ていたのが映画だった。

夏休みなどの長期休暇は特に暇で、母によく近所のレンタルビデオショップに連れて行ってもらい、1週間のうちに観る映画のビデオをいくつも借りていた。アニメだったり、コメディやミュージカルだったり。お気に入りの映画は、何度も繰り返し観た。

だから、「そういう映画をもっと教えてほしい」と言われた時、とてもうれしくなった。息子が自分の趣味に興味を持ってくれた喜びとともに、一人で映画を観ていた頃の自分に友達ができたような、ちょっと不思議な感覚だった。

「じゃあ、週に1度『映画の日』を作ろうか」
そう言うと、長男は「うん!」と元気よく返事した。よくわかっていないらしい5歳の次男も「うん!」とつられて言う。

以来、「映画の日」を設けていろんな映画を観ている。
1本1本観たものを記録していて、もうすぐ50本目。100本くらい観られたらすごいね、と話している。

§

子供たちと観る映画は、多岐にわたる。

私が子供の頃好きだった映画も観るし(『天使にラブソングを…』とか『ホーム・アローン』とかスタジオジブリの作品とか)、子供たちが観たい映画も観る(『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』とか『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』とか)。
最近話題になっていた大人向けの映画も観るし(『TENET テネット』とか『ヤクザと家族 The Family』とか)、友人から「きっと長男くん気にいると思うよ」と勧められた映画も観る(『ブルース・ブラザーズ』とか『僕のワンダフル・ライフ』とか)。
私も子供たちも映画なら何でも観るタイプなので、どれもおもしろく観ている。

ただ少し困るのが、ラブシーンや暴力シーンのある映画だ。ラブシーンは観ていて気まずくなるし、暴力シーンはできたらまだ見せたくない。私が観たいと思う映画は、大抵この2つのシーンが出てくるので、映画選びもなかなか難しい。

それなので最近は、地上波でもよく放映されている、国民的に有名な映画をよく観ている。『E.T.』とか『スター・ウォーズ』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか。老若男女問わずすごく有名な作品なのに、私自身まだ観ていない作品もたくさんあるものだ。

ついこの間は、『ハリー・ポッター』シリーズを観始めた。高校生の頃に本を読んだけれど、実写を観るのは初めて。長男も同じく、本は読んだが映画は観たことがないと言う。

観てみると、これがとてもおもしろい。魅力的なキャラクターたちに、次々と起こるピンチやスリル、それを見事に乗り越えていく爽快な展開。特に長男は夢中になって、毎日必ず1時間するゲームの時間を差し置いて、どんどん続編を観るようになった。

「映画って、本当におもしろいなあ。他にもいっぱい観てみたい」

そうつぶやく長男を見て、またうれしくなった。自分が好きなものを好きになってもらえることって、とても素敵なことだなと思う。

§

ところで、私の大好きな漫画に『ここは今から倫理です。』という作品がある。
さまざまな悩みを持つ高校生たちと、学校で倫理の授業を教える先生のお話だ。

その中に、毎日授業で居眠りをする男子生徒が登場する。彼は母子家庭で夜遅くまで家に誰もおらず、友達と夜遊びを繰り返していた。「夜は本当にすることがない」。だから、つい外に出て、誰かと暇つぶしがしたくなる。

そんな彼がある夜、先生に電話をかける。生徒が今何をしているのかと聞くと、先生は映画『ローマの休日』を観ていたと答えた。そして、これから夜遊びに出かけようとする彼に、先生は「(あなたも)映画観ましょうよ」と呼びかけるのだ。

「キルケゴールの言葉に“不安は自由のめまいだ”というものがあります
貴方は自由だ 夜の街を好きに歩く事も 出たくない授業に出ない事も出来る
しかし何も自分をそこに引きとめるものがなく どこまでも高く飛べる自由さは
あまりにどこまでも行けすぎて… 不安というめまいを起こすのですよ
貴方は今その自由な生活が── どこか不安なのではないですか?」

そして男子生徒に、明日の学校で映画の感想を聞かせてほしいとお願いする。

「映画に縛られる2時間は── 自由はないが 不安もない
それは本当にただ単純に 楽しい時間だから…」

電話を切った後、男子生徒は母親が持っていた『雨に唄えば』のDVDを観始めるのだ。

私はこのエピソードを読んで、思わず泣いてしまった。これまで自分自身がどれだけ「映画に縛られる2時間」に助けられてきたか。それを改めて感じさせられたからだった。

映画を観始めると、基本的にはそこから動くことができない。自分から立ち去るまでは、私たちは物語の中に縛り付けられている。

だけど、その「不自由」に助けられる時が人生にはたびたびある。ただ時間をやり過ごすしかない時、答えのない悩みや思い出したくないことがある時……
そういう時、映画は私たちを連れ出してくれる。自分のことを考えなくてもいい、「ただ単純に楽しい時間」へと。

私は、夢中で映画を観ている子供たちの顔を見ながら、彼らに映画のおもしろさを伝えることができてよかったと思った。これからの人生、楽しくない時間なんて山ほどあるだろう。でも映画が始まれば、その「2時間」だけはきっと楽しい。

「次は何を観ようか?」
私は子供たちにそう尋ねる。この「2時間」の体験がきっと、これからの彼らの人生を、ところどころで助けてくれるはずだから。

 

“ 目に映る世界は選ぶこともできる二時間だけは楽しい夢を ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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