【過去の点をつなぐ】後編:目の前のことをひとつずつ。不安だから、考えて想像して心を尽くす(ドムドムハンバーガー 藤崎忍さん)
ライター 花沢亜衣
人生の岐路に立ったとき、なにをもって決断して、そしてそこからどのように行動するのか。
お話を伺ったのは、ドムドムハンバーガーの社長・藤崎忍(ふじさき しのぶ)さん。39歳ではじめて働きに出て、渋谷109の店長、新橋の居酒屋、そしてドムドムハンバーガーの社長とユニークな経歴を歩いてきた藤崎さんは、人生の岐路にどのように向き合ってきたのでしょう。
後編では、ドムドムハンバーガーへ入社し、社長になるお話を通して、藤崎さんが働く上で大切にしている考え方についてお聞きします。
ドキドキしたし、ワクワクした。50歳での再就職
起業してほどなく予約の取れない人気店となった新橋の居酒屋『そらき』。2店舗目もオープンし、大盛況のなかで藤崎さんはまたひとつ決断をします。常連さんの1人からドムドムハンバーガーへのお誘いをもらったのです。
藤崎さん:
「最初は、『そらき』で働きながら外部アドバイザーとして新メニューの開発に関わっていました。手作り厚焼きたまごバーガーをはじめとする新商品の開発やグランドメニューの大幅リニューアルに携わりました。その後、熱意を認められたのか、『正式に入社してお仕事をしませんか』というお誘いをいただいたんです。
誘っていただけるということが、まずなによりもうれしかったですね。ドキドキしたし、ウキウキしました。居酒屋のおばさんを企業に誘ってくれる役員の方たちの勇気にも感銘を受けて、恩返ししたいと思ったんです。
ちょうど、ずっと手伝ってくれていたスタッフののりちゃんからも『新しいことをしたい』という話をもらっていた時期でした。だったら、お店をのりちゃんに引き継ぎ自由にやってもらって、私が出ていくのもいいんじゃないかって思ったんです。その少し前に主人が亡くなり、息子も社会人になっていたので、少し責任が軽くなっていたタイミングでもあったんですよね。
のりちゃんに引き継ぐかたちで、私はドムドムハンバーガーに入社しました。そのときは、自分で作ったお店を手放す寂しさみたいなものはなく、ハッピーな気持ちでした」
もどかしさを抱えての直談判から、まさかの社長就任
『そらき』のスタッフや常連さんに応援されながら送り出され、ドムドムハンバーガーに入社。スーパーバイザーとして、店舗と経営陣のあいだを行き来しながら、ドムドムハンバーガーを盛り上げていくなかで、藤崎さんの中には、意見を言えないもどかしさが芽生えてきました。
藤崎さん:
「当時、現場での課題が経営陣に届いてないような状況でした。私を社員に誘ってくれた方が当時親会社の専務で、『意見を言える立場にしてほしい』と伝えたのですが、『結果も出してないのに役員にはできない』という反応でした。『それはそうだろうな』と思いつつも、売上を上げるためにはなにかしなければいけないと必死でしたね」
立場は変わらないながらも、その状況を打開すべく奮闘する藤崎さんに、代表取締役の打診があったのは、直談判から約2ヶ月後のことでした。
藤崎さん:
「とてもびっくりしました。さすがに社長とは思っていませんでしたから。社長になりたいと思って仕事をしていたわけではなく、その時その時の仕事を一生懸命やっていただけ。そうしたら、気がついていたら社長になっていたという感じがあります」
“自分のサイズ”は足りていなければ補っていけばいい
突然の社長就任。驚く以上に、「自分に務まるのだろうか?」「自分のサイズにはトゥーマッチなのではないか」と怖気ついてしまいそうなもの。 そんな問いを投げかけてみると……。
藤崎さん:
「うーん。自分のサイズというのはどんどん変化すると思うんです。その大きさにまだなっていなくても、身につけていく努力ができればいいんじゃないかなって。
男だとか、女だとか、初めての就職だとか。そのことで自分のサイズを自分が勝手に決めているだけであって、やってみなきゃわからない。それでいいんだと思うんですよ。窮屈だったら変えていけば良いし、足りていなければ補っていけばいいんじゃないかなって思っています。
私も間違ったこともあったはずですけど……、『せっかく声をかけてくださったんだから、できるところまではしっかりやってみよう』というふうに捉えてやってきました」
自分の価値観だけで考えず、相手に心を尽くす
藤崎さんが社長になってからのドムドムハンバーガーの大きな変化のひとつが、FRAPBOISやBEAMSなどのアパレルブランドとのコラボレーションです。新しい取り組みをはじめるときには、社内の反対もあったそうで……。
藤崎さん:
「『FRAPBOISとコラボしましょう、かわいいブランドなんです』と偉い人たちに伝えても、なかなか理解してもらえなくて、『ハンバーガー屋が洋服を作ってどうするの』、『商標権の管理がむずかしい』と言われてしまいました。
どう伝えたらうまくいくだろう、相手は何を求めているだろう、と毎日考え続けました。それは、相手に心を尽くすということです。私がいくら『やりたい』と思っても、自分の価値観だけで考えていては相手には伝わりませんから。そのときは、自分で商標権のことをきちんと調べて、FRAPBOISがビギグループで三井物産と資本関係があることなどと合わせて、あらためて上層部に提案したらようやくOKが出ました。
『どうやったら実現できるか』を深く考えるというのは、今も変わらないです。昨夜も親会社の役員に提案する事があって、昨夜からずっと考えていて。なんて言えばいいのだろう、こう返されるかな、とたくさん想像していますね」
泣いてばかりいても解決できないと気づいた
藤崎さん:
「そんなふうに思えるようになったのは、主人が病気をしていた時、泣いてばっかりいても前進も解決もできないという経験をしたのが、少なからず影響しているかもしれません。
主人は脳梗塞で左半身が不自由になり、退院するとなったら、手すりやベッドの準備をして……と、家を整える必要がある。どうやったらできるかを導き出さなくてはいけないわけです。仕事と介護の両立というのはとても厳しい状況だけど、私は、109で働くことはどうしても手放したくなかった。楽しかったから。私にとっては働くことが心の支えにもなっていたんです。だから時間の使い方も含め、実現する方法を考えるしかなかったんです。
そのときの経験から、自分の置かれている環境や苦しいことに関して、どうやったら解決できるかの方法論を考える癖がついたのかもしれないです」
できないことよりも『自分にはこれがある』を見つける
たくさん考え、策を練ってもやっぱり「失敗したらどうしよう……」という不安はありそうなもの。藤崎さんは、失敗はこわくないんでしょうか?
藤崎さん:
「もちろん失敗もあるんだけども、失敗という捉え方はしてないんです。何かを実行するにあたっては、これでほんとにいいんだろうか、大丈夫だろうかってすごくいろいろな想像して、考える。だから、たとえ何かが違ったとしても、次は間違わないと思うんです。
できないことがあったとしても、できないことに目を向けるんじゃなくて、なにかひとつ『自分にはこれがあるんだからいいじゃん』って思えるものがあると、いろんなことに壁を持たずに行動できるんじゃないかなって私は思いますね。これはできないけど、料理は上手だとか、友だちが多いとか、笑うと可愛いって言ってくれる人がたまにいるとか。そういうことでいいと思うんです。
自分に厳しくこだわりすぎない。好きな人に対しては、ダメなところでも認めちゃったりするじゃないですか。自分のこともそういうふうに見てあげたらいいんじゃないかなって思っています」
できることや新しい視点をひとつ増やすチャンスだと思って
「人生に沢山の点を打つことが大事、その点一つひとつが全く関係性を持たず、それらが将来どんな役に立つかわからなくても、多くの経験を重ねていくことが大事であると思っています」
藤崎さんの著書『ドムドムの逆襲』に書かれていた言葉です。とても印象に残っていたので、そのことを伝えてみると……。
「渦中にいるときって一生懸命で何も考えてないんですよね。そのときは点を打つ作業しかしていかなかったけど、それが結果として、今になっているんだと。最近、やっとそれを感じるようになってきました」と語ってくれました。
自分にできるかどうか、この選択で合っているのかどうか。過去の経験を照らしあわせて、できない理由ばかり考えていたけれど、過去にやってきたことが今につながっているなら――。
新しいことへの挑戦や決断も、できることや新しい視点をひとつ増やすチャンスと思えば少しだけ軽やかに決断できそう。そんなことを思いながら食べたハンバーガーはとても優しくておいしく、一歩踏み出すパワーをもらえました。
(おわり)
写真:濱津和貴
もくじ
藤崎 忍
1966年生まれ。専業主婦から39歳で渋谷109のアパレルショップに人生で初めての就職をし、店長として働き始める。その後、居酒屋の経営などを経て、2017年11月にドムドムフードサービスに入社。9か月後の18年8月に代表取締役社長に就任。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)などがある。
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