【あの子と暮らす】02:別名は“ふわふわさん”。脇もとこさん家族を支える大黒柱、フォンドと10年余り
ライター 小野民
道端で散歩中の犬を見るとついつい目で追ってしまうのは、私だけではないはず。飼い主さんと目が合えば、「かわいいですねえ」とついつい話しかけています。
さらに、仕事で訪ねた先に犬や猫などがいれば、取材の合間にパシャリと撮影したり、なでなでしたり……彼らがいるだけで、心はほぐれて、和やかな空気に包まれます。
後編で訪ねるのは、参鶏湯研究家の脇もとこさん家族と暮らすフォンド。これまでも何度か取材で伺うたび、大きなぬいぐるみのような存在感にハートを射抜かれていたのでした。
前編をよむ
name:フォンド
13才のオーストラリアンラブラドゥードゥルで、脇さんお気に入りの絵本『ホンドとファビアン』に登場する犬Hondにどことなく似ていることからFondに。スペイン語で「水」という意味もあり。その見た目から「ふわふわさん」の別名で呼ばれることもしばしばあるそう。
海を越えてやってきた、セラピードック
▲家に来たばかりのフォンド(生後6ヶ月)
脇さん:
「フォンドは我が家にやってきた3匹目の犬。我が家は、結婚する少し前から今まで、ずっと犬のいる暮らしです。
フォンドが来る前にトイプードルを2匹飼っていましたが、1匹が病気で亡くなって。当時、一生懸命看病したけれど後悔も残って、すごく辛い時期が続きました」
脇さん:
「そこで新しい家族を迎えようと準備をしてやってきたのがフォンドです。迎えるならどんな犬種がいいかなと考えているときに、セラピードッグ※として知られているオーストラリアンラブラドゥードゥルがいいのでは? と提案されました。
当時はまだ日本では珍しい犬種で、フォンドは6ヶ月のときにオーストラリアから飛行機に乗ってやってきました。一緒に生活し始めたら、亡くなったピグに仕草や体の特徴がとてもよく似ていて。生まれ変わりなんじゃないかと思うくらいでした。
フォンドには、ピグにしてあげられなかったことも全部してあげるんだと思って、これまで生活してきました。だから、フォンドと楽しい思い出が築けたのはピグのおかげでもありますね」
▲少し前に体調を崩したこともあり、トリミングをお休みしたそうで、最大限に「ふわふわ」な状態でお迎えしてくれました。一緒に写っているのは、お気に入りのおもちゃと散歩グッズ
脇さん:
「フォンドが好きなのは、人と遊ぶことと食べること。玄関近くの窓の側が定位置で、いつも下を通る人を眺めているんです。家族が帰ってくるのを待ち構えているし、お客さんが来るのもすごく嬉しいんですよ。『おもちゃどこだっけ?』と家の中を探しまわって、『遊ぼうよ』とくわえて持ってきます」
たしかに、この日もフォンドはお気に入りのおもちゃを持って、しっぽをフリフリして出迎えてくれました。
※セラピードッグ…人間とふれあい、コミュニケーションを通して心を元気にする役割を持った犬のこと。高齢者や病気の方をはじめ、さまざまな現場で人を癒しています。
私もフォンドも歳を重ねて……
脇さん:
「好きな食べものは、なんといってもパン。パンを取り出したり焼いたりしていると、すぐに嗅ぎつけてやってきます(笑)。みかんやりんご、おいもも好き。おいしいものを食べるときには、口を開けながらシャクシャクと食べるのがなんともかわいいんです。
年齢を重ねて、ドライフードに加えて、野菜を煮込んだものや果物も普段から食べるようになりました」
脇さん:
「フォンドの体調管理にも食養生の考えを取り入れるようになったのは、東洋医学にも明るい獣医さんに出会ってから。私自身、薬膳や植物療法を勉強していたのに、以前は犬に当てはめて考えることはなかったんです。でも今は、犬の健康のためにも理に叶っていると思います。
デトックスのために果物を食べて、4〜5年前からは、家では用を足さないフォンドのために散歩の回数も1日3回に増やしました」
▲顔の毛が水浸しにならないように設計されたお皿。ふわふわさんならではのグッズです
脇さん:
「1日3回の散歩となると、誰かは家にいなくちゃいけないから、今は家族揃っての旅行は難しい。ちょっと寂しい気もしますが、フォンドとご近所を歩くのもすごく楽しいんです。
特に朝の緑道を歩いていると季節の変化も感じて『気持ちいいねー』と話しかけています。こういうことを味わえるようになったのは、私も歳を重ねたからこそかなと思います。
犬にとっての散歩は、いろいろな情報を得たり、他の犬たちと文通するようなものなんだそうです。人間も犬もそれぞれがいい時間を過ごせているのも、やっぱりフォンドがいるからこそですね」
子どもは大人へ、子犬はおじいちゃんになっても、変わらないこと
現在13歳のフォンドは、今やゆったりと大らかな佇まいのおじいちゃん。やって来た頃は脇さんから見ると8歳の娘さんと「ちょうど同じような大きさ」だったと振り返ります。
脇さん:
「一緒にじゃれあったり、かくれんぼをしたり、家の中をぐるぐる回っていた光景が懐かしいですね。娘の友だちも『フォンドに会いたい』と言ってやって来る子も多くて、たくさんの人にかわいがられてきました。
娘はもう成人して家にいる時間も少なくなりましたけれど、フォンドは癒しの存在のようですね。フォンドがいてくれたからこそ、家族の関係も健康も、コンディションがよくなったのは間違いありません」
脇さん:
「私にとってのフォンドは頼れる存在かな。彼がいることで守られている感じがするし、落ち込んでる時は『背中かして』と言って、背中から抱きつきます。たまに嫌がられることもあるけれど(笑)、しばらくぴったりくっついていると、呼吸がすーっと深くなるんです」
とても大人しく、最後まで鳴き声を聞かなかったフォンド。不思議なことに、家族の誕生祝いには、ハッピバースデーの歌に合わせてワンワンと元気に鳴くのだそう。脇さんが見せてくれた一生懸命歌っているような動画に、キュンとさせられました。
***
犬、猫、ハムスター、鳥……それぞれが人間とは全く違う習性で生きているのは言わずもがな。さらには、どんなに小さな生きものでもそれぞれに個性を持っているのだと、一緒に暮らしている家族の言葉を通してあらためて感じさせられました。
私の家にも4匹の猫がいます。性格はてんでばらばらで、その個性ゆえにお世話が大変なこともしばしば。でも、そういうときには、金子みすゞの有名な詩の一節「みんな違ってみんないい」を声に出して言ってみます。
そうそう、そうだった。当たり前だけど、忘れがちな大切なことを思い出させてくれる彼らは、やはりとびきり愛おしい存在です。
(おわり)
【写真】木村文平(2枚目以外)
もくじ
脇もとこ
参鶏湯研究家、スタイリスト、参鶏湯スパイスセット開発&販売など、活躍は多岐にわたる。参鶏湯ワークショップの他、薬に頼らず身近な食材で体調を整えるための漢方講座、植物療法によるコンサルテーションなども展開。ホームページはこちら
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