【連載|お星さんがたべたい】04:オムライスとむせかえるような花の匂いと
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小原 晩
まったく料理の経験などないのに「まあ、結構料理はするほうかな」と嘘をついたことがある。
はじめてできた恋人に「料理とかはするの」と聞かれたのだったか、自分から言い出したのかは覚えていないけれど、とにかく、はじめての恋人に料理のできる女の子だと思われたかったのである。
ところで、料理をするほうだとなると、かならず得意料理を聞かれるのは世の常、会話の常。
嘘をついた私にも、得意料理の質問は降り注ぎ、私は咄嗟に「オムライスかな」なんてわらって答えた。嘘をつくと、どきどきとして、おしゃべりのスピードが上がってしまうのは私だけだろうか。早口でオムライスを作るにあたっての難しいところ、そして手軽さをまくし立てるように語り(相手だって料理をしないのだから、嘘だと気づきゃしないのだ)結びには「今度つくってあげるよ」と真っ白の顔で言ったのだった。
不思議なもので、一度もつくった事のないオムライスのことをぺらぺらしゃべっているうちに、なんとなく作れるような気もしてきたのである。
今度、はすぐにやってきて、私は母に事情を説明し、実家の台所に立っていた。
インターネットであらかじめレシピを調べ、買い出しはすませた。
心配して横についている母のアドバイスを参考にしたり、ときには無視したりして、ガスコンロの火におろおろしたり、ケチャップライスを周囲に撒き散らして怒られたり、あまりにも手つきが危なすぎて、「お母さんがやってあげる」と包丁や木べらを奪われそうになったりしたが「お母さんにつくってもらっちゃったら嘘になっちゃうでしょうがッ!」ともう散々嘘をついているというのに意地を張り、最初から最後までなんとか自分の手で作り終えた。ちいさなお弁当箱につめたオムライスはなんとも不恰好で、あからさまに得意料理ではなさそうだった。
昼過ぎに待ち合わせをして、学校の近くをうろうろ歩いて、それから川のそばにある公園で食べることになった。
あれは春の終わりのころで、その公園のベンチには薄むらさき色の花が咲きこぼれるように絡まった屋根があった。ふたり並んで花の下のベンチに座った。
彼がふたを開け、スプーンですくい、ひとくち食べるまでの間、緊張してうまく息ができなかった。「すげーうまい!」と大きな声で言ってから、うれしそうにぱくぱく食べる彼を見て、ほっとして、深く息を吸った。むせかえるような花の匂いがした。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
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