【きっかけシネマ Vol.03】父と村上春樹とギャツビー。「華麗なるギャツビー」
ライター 新田まるむ
文 ライター新田まるむ
『華麗なるギャツビー』(2013年)
【監督】
バズ・ラーマン
【キャスト】
レオナルド・ディカプリオ
トビー・マグワイア
キャリー・マリガン
ジョエル・エドガートン
エリザベス・デビッキ
【ストーリー】
原作はスコット・フィッツジェラルドによって1925年に書かれた小説。好景気に沸くアメリカと著者自身の栄光と転落を、謎の富豪ギャツビーの人生に投影して描いた、人間の真髄に迫る名作。「ロミオ+ジュリエット」「ムーランルージュ」のバズ・ラーマン監督による映画化は、原作の世界観を斬新な映像美で忠実に再現、小説を知らない世代にも楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。現代風に蘇る20年代、狂騒のジャズエイジのきらびやかなファッションや音楽、パーティーシーンは見応えあり!
父と村上春樹とギャツビー。
人の真価って何だろう?
様々なシーンで、いろんな顔を使い分けながら生きている私たち。本当の顔って、その人の本当の価値みたいなものってどこにあるんだろう?
そんなことをふと考えるのは、昨年亡くなった私の父の愛書だったこの小説を読む時…
「華麗なるギャツビー」はまさに“人の真価”を描いた作品です。若い方たちは村上春樹さんの翻訳版(「グレート・ギャツビー」)が出たことでご存知かもしれませんね。
私の父も村上春樹さんも“団塊の世代”で、アメリカ文学が好きでジャズが好き。
そんな両者ともに、熱い思い入れのある「ギャツビー」。
父と、村上春樹さんと、ギャツビー。この3人の存在が、いつしか私の中の大事な引き出しに一緒にしまわれるようになりました。
バズ・ラーマン監督による今回の映画化、村上春樹さんもこの映画、「二回観た」そうで、お眼鏡にかなったようです。
— 「村上さんのところ」 村上春樹著 ギャツビーの映画あれこれより
この作品の魅力は、なんといってもギャツビーの生き方。
ギャツビーという人は、豪邸で豪華なパーティを開く謎のセレブ。オックスフォード大学を出た本物のジェントルマン。
というのは実は表面に過ぎず、彼には本当の目的がひとつだけあるのです。
たった一人の女性、デイジーの愛という“希望”を手に入れること。
そのために、努力と野心でゼロから人生を駆け上ってきた彼の真実の姿に人間味があり、そして遂には、デイジーを取り巻く世界に砕け散る彼の純愛が、人の心を打つのです。
語り手のニックにだけは、周りから見た“気どり屋で軽薄なギャツビー”とは違う、控えめな純粋さや気高さが見える。
そしてそれが、ギャツビーという人間の“真価”であることが、ニックの目を通して私たちにも伝わるんです。
きっと人は、いろんな顔の奥に、密かに輝く本当の価値みたいなものを持っている。
希望とか、尊厳とか、そういうものがしまわれている大事なところに。
ギャツビーの生き方にはそんな人間の真実が詰まっていて、希望を打ち砕かれながらも懸命に生きる私たちの心をとらえ続けるのだろうと思います。
この小説を愛した私の父も、ちょっと変わったことばかりして、当時の私には理解できないようなこともいっぱいあったけれど、きっとギャツビーのように、“途方もない希望”や理想を思い描き、懸命に生きていたんだろうな、なんて思ったり。
そして自分にはどんな真価があるだろう?
自分と周りの人々の生き方を、ふと見つめたくなる、きっかけシネマです。
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