【週末エッセイ】たくさんの失敗の末に見つけた、我が家にとっての「心地よさ」
文筆家 大平一枝
文 大平一枝
最終話:心地よさの正体
家事はなんのために
シリーズ最終の今回、あらためて考えてみた。家事は誰のために、なんのためにするんだろう。
家族や自分のため。みんなが心地よく暮らすため。だいたいそんな答えに落ち着くと思う。
では、その「心地よく」って、なんだろう? 耳あたりのいい言葉だが、このひとことのために、意外と日々大きな努力が必要だったりはしまいか。家族みんなが心地よく暮らすには、きれいに片付いた部屋で気持ちのゆき届いた食事を作り、ゆったり過ごす。文字にすると何行かで終わるが、家事という作業を実際にすると、「心地よい空間」に整えるためにけっこうな時間と手間が必要そうだ。
私は、ときどき思う。「心地よさ」が負担になってはいけない。
自分の思う「心地よさ」がゴールであって、それは誰かが”こんな感じ”と決めるものではない。
だが私たちは、ふだん目にするさまざまな情報を通して「心地よさ」のゴールを間違って設定しがちだ。誰かの素敵な暮らし。あの人の居心地の良い空間。この家具とこのテーブルセッティング。それらは「心地よさ」の一つの提案であって、すべてではない。
数々の失敗の末に
当たり前のようなことだが、こう気づいたのはじつは最近のことだ。私はずいぶん長い間、この、自分ではない誰かの決めた「心地よさ」の提案や定義に振り回されてきた。
しかし、毎日の家事は待ってくれないどころか次々小波のように押し寄せてくるし、ふたりの子どもが幼い頃はそれこそ毎日がへとへとで、いったい自分はいつになったらゆっくり夜のニュースを見られるのだろうかと、他愛もないことで途方に暮れた。
共働きで夫も同じ環境なのに、なんで私だけと思ったこともあるし、夜泣きをする娘に閉口して家族に当たり散らしたこともある。
そういうたくさんの失敗の日々を経て、心地良いというのは、自分が笑顔でいればいいんだということに気づいた。夕食がインスタントラーメンでも、部屋が多少散らかっていても、取り込んだ洗濯物が山と積まれていたとしても、私が笑っていればだいたい家族は落ち着く。家族の間に丸く穏やかな空気が流れる。それが我が家の「心地良い」ってことだ。
人生の謎は、生活の折り折りのふとした瞬間に、ふと解けたりする。あのときわかっていたら、イライラせずにすんだのに。もっと子育てを楽しめたのにと思うが、そう気づいた頃には、子どもはその手から離れているかもしれない。
だからおもしろいのだし、だから人生は切ないのである。
『家のなかの、ちょっぴりめんどうなこと』という、ふだんなかなか書かないお題を頂戴したおかげで、自分のなかのあまり直視してこなかった気持ちのひだをのぞく機会を得た。貴重な経験をいただいた。毎回読者の方から感想のメールをいただき、励みにもなった。改めて御礼を申し上げたい。ご愛読ありがとうございました。
長男長女の誕生をまとめて御祝い。ブルーベリーチーズケーキを作りました。ケーキを焼くのもそろそろ最後かなと思いつつ……(撮影:大平一枝)
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