【はたらきかたシリーズ】フォトグラファー 鍵岡龍門さん編 第3話:面白さの中から生まれる「遊び心」
編集スタッフ 塩川
写真 木村文平
フォトグラファー 鍵岡 龍門(かぎおか りゅうもん)さんの働き方について、全3話でお話を伺っています。
雑誌をはじめ、当店の特集でもおなじみの鍵岡さんの写真は、一目で見ただけで誰が撮ったか分かる「らしさ」を感じるもの。
そして鍵岡さんがコミュニケーションをとりながら撮影を進める中で、新たに見つける面白さには「遊び心」が光ります。
3話目では遊び心を生み出すために意識していることや、ご家族やお子様への想いについて伺っていきます。
もくじ
第3話:面白さの中から生まれる「遊び心」
「遊び心」は、仕事の質を上げてくれる。
2話目の後半で伺った寛容さから生まれる面白さ。それは鍵岡さんが仕事をする上での「遊び心」につながっていました。
2015年に出版した、一田憲子さんの書籍『手紙のある暮らし -手書きだからこそ伝わる大切なこと-』(マイナビ)の撮影の時に、こんなことがあったそうです。
鍵岡さん:
「メインの撮影というよりは、本の中で小さめに掲載される、アイテムカットを撮影した時のことです。
ロジカルに考えると、ページ構成上は小さく写真が載るから、物を分かりやすく撮るほうが正解だと思って撮影していたんです。
でも一田さんからひとこと『色々あるから』と言われてハッとしました。
小さなカットでも角っこを遊んだり、面白くやらないとダメだ!と気づいて、必死に面白さを見つけながら撮影するようにしました。でもそれが自分には合っていたんです」
人の意見を受け入れる、それも寛容さだと思います。そうして出来上がった写真は、その日の自然を収めた鍵岡さんらしいものに仕上がりました。
一人ひとりの人物像を伝える写真は「遊び心」があることで、本の仕上がりに深みが増しているように感じました。
▲書籍『手紙のある暮らし』は、スタイリストや作家さんなど15人の手紙にまつわるエピソードを紹介しています。
リレーのように「楽しい気持ち」を渡していく。
鍵岡さん:
「フリーランスとして働いていても、本や雑誌など何かを作る時には、編集さんデザイナーさんとチームで動くことが多いんです。
僕の気持ちとしては、取材では撮られる人にも編集さんにも、その場にいるみんなに楽しんでもらいたい。でもそれだけじゃなくて、そのあとにも楽しかった気持ちを渡していきたいんです。
写真を渡した時に『こんな風景もあったんだ』とか『あれも撮っていたんだ』とか、面白がってもらいたい。その楽しんだ気持ちは、あとに続く編集やデザインの工程にも乗っかっていくと思うんですよね。
想いを乗せて作ったものは、本や雑誌のかたちになった時、読者の方々にもまっすぐ伝わると信じています」
リレーのように楽しさを乗せて「遊び心」を生み出していくことは、チームで真剣にいいものを作る上でとても大切だなと、鍵岡さんの言葉でハッと気付きました。そうやって妥協せず作られたものは、心の奥底に響くのではないでしょうか。
例えば誰かと仕事がしたいと思う時、100点満点も十分ですが、それを超える点数を一緒に叩きだしてくれる人とお仕事ができると、何かが生まれた気がしてとても嬉しくなることがあります。
「この人と仕事ができてよかった。また一緒にお仕事がしたい!」そう思い・思われることは、仕事の醍醐味の一つではないでしょうか。
自分一人ではできないから、誰かと一緒に働く。それで実力以上のものが形にできたら、すごく素敵なことです。
鍵岡さんは、仕事を通じて「いい人」に出会い、またその人たちと継続して楽しく仕事ができるようになってきたのが、とても嬉しいと話していました。
「自分がいいと思うことを、責任を持って伝えたい」そう決意し働くことは、いい仕事のサイクルを生み出しているように感じられました。
▲鍵岡さんの仕事部屋には、お父さまの書斎を撮影した、作品「本の窠」のプリントがありました。
親の背中を見ながら育ったから、子供達にも伝えていきたい。
▲楽しそうな、鍵岡家のみなさん。私も長女として仲間入りしたいくらい、心地よい時間を過ごしました。
鍵岡さんは現在7歳と3歳の娘さん、9ヶ月の息子さんのお父さんでもあります。
お子さんが生まれてから何か変化はありましたか?と聞くと「家族を食べさせなきゃ!みたいな責任は生まれましたが、具体的に大きな変化は特にないですね」と苦笑い。でも強いて言うならばと、話してくれました。
鍵岡さん:
「ただ、子供って色んなことを自由に楽しむじゃあないですか。そんな姿が、僕自身の仕事の楽しみ方を肯定してくれるように、感じられるようになったかもしれません。
『仕事がない、やばい!』なんて一人で夜に落ち込む日もありますし、うまくいかないことだってもちろんあります。
でも僕自身が父の背中を見て、勝手に今のように育ったので、僕も何かしら子供達に影響を与えているのだろうと思っています。
だから大変なことがあっても、いい顔はしていきたいなと意識するようにはなってきました。それは自分のためでもあるんですけどね」
そうやって少し照れ笑いをする鍵岡さん。そこで奥様がひと言「子供が生まれてからは、年3回ぐらい『今が一番幸せ』と言うんですよ」と教えてくれました。
▲取材中に、面白いエピソードをいくつか残してくれた、鍵岡さんの奥様・朝菜(あさな)さん。
鍵岡さん:
「自分の責任で仕事をして、お金を稼いで家族が暮らせている。だから今が一番幸せなんです。
全てにおいて進行中で、まだまだ理想にはたどり着いているとはいえませんが、仕事の流れがちょっとずつ形になってきて、その中で写真が上手くなっているのを感じているところです」
今が一番幸せと言い切れるなんて素敵だな〜!と素直に思うと同時に、鍵岡さんはどんな状況でも幸せを見つけ、それを家族に伝えているような気がしてきました。
▲長男、樹(いつき)くん。鍵岡さんに負けず(?)取材中、たくさんおしゃべりしてくれました。
▲ダイニングテーブルの花瓶には、お子さんが毎日のお土産に摘んできてくれる、野に咲くお花が生けてありました。
鍵岡さんと仕事をすると、楽しい秘密がわかった。
▲取材後半は鍵岡さんお気に入りのカフェ「SLOPE」に移動しお話を伺いました。
カフェに移動し雑談をしながら、最後の質問として「今後は何をやっていきたいですか?」と鍵岡さんに伺いました。
すると「たくさん写真が撮りたいし、たくさんいい人に会いたいです」と拍子抜けするぐらい、シンプルな答えが返ってきました。
取材中、鍵岡さんが仕事で関わった編集者・デザイナー・フォトグラファーなどなど、たくさんの方のお名前が出てきました。
1話目の賞を獲ったときに「面白い」と感じた、写真を通してのコミュケーションは「いい人」に出会いながら、今もなお、輪を大きくしつづけいています。
「面白い仕事の先には、それをいいと思う人が見ていてくれる。そして面白い仕事が舞い込んでくる。そんなサイクルを少しずつ感じています」と鍵岡さんは話していました。
責任をもって、毎回何かを見つけながら働くこと。些細な事の積み重ねが、仕事を面白くしてくれるヒントのように感じ取れました。
▲お子さんとのお散歩でよく訪れるSLOPEには、絵本がたくさんありました。
この日の取材はとても楽しいものでした。ですが楽しかったからこそ、きちんといい形にしなければならないと、プレッシャーを抱えて帰ったのも確かです。
鍵岡さんはフリーフォトグラファーとして働き始めて10年目、一方私は編集者になって1年目。RPGゲームに例えると、初期装備の剣が、かろうじて手に入ったぐらいのレベルでしょう。
自分自身と向き合いながら「いい」と思えるまでは、時間がかかるし苦しい。けれどいいと思えない物を出してしまった時の方が、後々ずっと残って実は一番辛い。それは私が過去の経験から学んだことです。
長らく抱えていたその辛い気持ちは、何かを理由にして責任から逃げていたことのように、お恥ずかしいことですが思えてきました。
鍵岡さんのお話を伺い、心に響いた「いいと思ったことに責任を持つ」こと。それはこれから、私が編集者として生きる上での糧となると予感しています。
(おわり)
撮影協力:SLOPE(写真 11、12、13枚目)
もくじ
フォトグラファー 鍵岡龍門
2006年よりフリーフォトグラファー活動を開始し、2007年 Canon写真新世紀「春風接人」で佳作を受賞。印象に寄り添うような写真を得意とし、雑誌や広告をはじめ、当店の特集など多数の媒体で活躍している。プライベートでは3児の父として、楽しみながら子育てに奮闘中。
▽鍵岡龍門さんが撮影した書籍は、こちらからご覧いただけます
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