【連載|ひとはパンのみにて】第七回:中華街にて買い出しを
みなさんこんにちは。安達茉莉子と申します。自他ともに認めるお買い物好きの私ですが、このたび買い物にまつわるエッセイの連載が始まることになりました。私は買い物とは、「出合うこと」だと思っています。みなさんの日々に、良き出合いがありますように。
第七回 中華街にて買い出しを
中華街を、地図なしで歩けるようになってきた。
横浜中華街は、観光客で賑わう一大観光地。食べ歩いたり、中華レストランに入ったり。だけど私にとっては、貴重な仕入れの場でもある。
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元々中国茶が趣味で、念願叶って、有名産地である中国南部の浙江省・杭州と、福建省・武夷山を訪れたのは2023年のこと。中目黒に本店のある岩茶専門店「岩茶房」が主催するツアーに参加し、自分でも現地の問屋街で試飲して、ええいとお茶の仕入れに挑戦してみたりもした。
帰国後、なんと自分でも茶会を開く機会が増えた。不思議なもので、茶器と茶葉を持っていると、話の流れで、じゃあ今度お茶会でもやりましょう、となる。我に返る。飲む専門だったのに、私がホストだ。準備しなければ! でもそれが楽しい。
私が好きな中国茶には、お作法らしきものはない。うまい茶をうまく楽しく面白く。肩肘張らない気楽で陽気なものだ。何と何のお茶を出そうとオーダーを考え、お茶請けを考える。よし、と大きな買い出しバッグを持って、中華街へ。
中華街は、買い出し目線で見ると、大きな商店街だ。いつしか「私の買い出しルート」ができていた。二つの通りを中心に、中華街を回るものだ。
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まず、中華街最寄りの駅である元町・中華街駅のひとつ手前の日本大通り駅で降りる。大さん橋近くのBLAUBERG an der KÜSTEで服を見て、中華街の方へ歩く。気分も上がり、このルートは中華街の混雑も避けられるのでおすすめだ。
大体10分くらい歩くと、中華街の一番西側である長安路につく。まずそこで寄るのは、中華スーパーの「耀盛號」(ようせいごう)。中国で売っているお菓子や飲み物、食材が並び、中国旅を思い出して高揚する。薬膳、漢方の食材もあるが、私はここで見知らぬポテチや袋ラーメンを買うのが好きだ。売店で、チャーシューメロンパンという、甘じょっぱい肉餡がメロンパン皮に包まれた点心をテイクアウトして、道で立ったまま食べる。もはや、これは買い出しに来た時の儀式と化している。
次に寄るのは中華菓子店の「聚楽」(じゅらく)。友人に教えてもらった小さな家族経営のお店で、ここの馬拉米羔(マーライコ)という中国のカステラは、しっとりふわふわで、中国茶にもぴったり。人気で売り切れることもあるので、買えたらその日はもうガッツポーズをしていい。
長安路を南に進み、中国茶を見に行く。普段は通販が多いが、店で話しながら買う楽しみもある。長安路の脇にある「緑苑」は、茶荘も併設しており、休憩したい時や、気になっているお茶を飲んでみたい時は、ここに入ることが多い。
長安路から、次は関帝廟通りに入る。関帝廟前の十字路から一本入り、中国茶・茶器専門店である「悟空茶荘」へ。茶器や茶道具などもバラエティがあり、行ってみると面白い。
最後は関帝廟通りを元町・中華街方面に向かって歩き、「隆泰商行」や「隆記」で、サンザシやドライマンゴーなどのドライフルーツや、きくらげやホタテの貝柱などの食材を買う。ここで販売しているチャーシュー饅頭5個セット(冷凍)は、中国茶会にぴったりで、私の定番になっている。
他に立ち寄ることもあるが、基本はこんな感じ。方向音痴の私でも歩けるシンプルなルートだ。
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つい先日も中華街を歩いていたら、急に、「ああ、なんて満たされる!」と、手を広げて空を仰ぎたくなった。
自分が普段見ている世界以外にも広く、文化は広がっている。食材は無限で、まだまだ食べたことのないものばかり。言葉だって、北京語、広東語、さまざまな方言などが飛び交っているはずだが、今の自分には違いがわからない。
お前は何にも知らないよ、と内心囁く。だけどそれは心地よい解放感もある。何も知らない私は、これから全部、試していける。食い意地ひとつで。
買い出しで、ひとつ書き忘れていた。関帝廟通りに、なぜか必ず店の前で立ち止まってしまうお店がある。そこで買うのは油条という中国の揚げパン。これを買わないと、帰れない。翌朝、温めて甘くした豆乳に浸して食べるのだ。無限の食文化が詰まったようなカバンを抱えて帰る、中華街の帰り道は、幸福が約束されている。
東京外国語大学英語専攻卒業、防衛省勤務、篠山の限界集落での生活、イギリスの大学院留学などを経て、言葉と絵を用いた作品の制作・発表を始める。『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)、『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)、『世界に放りこまれた』(ignition gallery)、『らせんの日々 ― 作家、福祉に出会う』(ぼくみん出版会)などの著書がある。
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