
50代に入り、ひとり旅を楽しんでいる友人が増えたように感じています。旅の様子を聞くにつけ、ひとり旅良いなぁ、と思うものの、行き先について調べたり、行程を決めたりするのはちょっと面倒……。
そんなふうに思っていたとき、料理研究家のなかしましほさんが気軽にひとり旅を楽しんでいると聞き、なかしまさんが鎌倉で営むおやつと雑貨のお店「あまいみせ ミニ」を訪ねました。
前編ではひとり旅をはじめたきっかけを中心に、続く後編では、よく行く韓国での食事情、お気に入りの行程などを伺いました。
前編から読む旅先でも、何度も食べたくなる味を探しています

多忙を極めていた40代、仕事ばかりの毎日から逃れるように韓国旅にハマっていったなかしまさん。
韓国では食べ歩きが定番の過ごし方なのだとか。
なかしまさん:
「韓国の映画やドラマを見て食事シーンに惹かれたこともあり、おいしいごはんを食べることが楽しみのひとつです。
それまで韓国料理ってあまり食べたことがなかったんです。焼き肉や辛い料理のイメージがあって……。韓国に行ってみたら、辛くない料理がたくさんありましたし、ひょっとしたら日本以上に野菜を食べる国かもしれません。魚料理もおいしいんですよ」

韓国に行き始めた頃は、ひとり客だと断られてしまうお店もあったそうですが、どのようにお気に入りのお店を見つけていったのでしょう?
なかしまさん:
「最初は、おいしいもの好きで味覚が似ている友人が勧めてくれるお店に行くことが多かったです。そのなかで本当に感動したお店とか、また行きたいと思うお店に出合うことができました。
日本でもそうなんですけれど、新しいお店をどんどん開拓するより、好きなお店を見つけたら何度も通いたいタイプです。そのお店がずっとあってほしいですし、強すぎない、やさしいおいしさが好きというのもあると思います。
一瞬でものすごくおいしいものって、インパクトはあるけれど、もう少し日常に寄り添ってくれるような味が好き。ソウルでもそういう店を探して通っています」
食べすぎない店選びも重要

食べ歩きは楽しいし、好きなお店には何度も通いたいけれど、年齢を重ねるとすぐにお腹がいっぱいになり、たくさん食べられないのも悩みの種です。
なかしまさん:
「わかります。胃袋が足りない!と私もいつも思っています。
韓国のお店ってボリュームも多かったりするので、私の場合は野菜料理や軽い汁物を選ぶことが多いです。残った分をテイクアウトできることも多いので、持ち帰りにしてあとでいただくこともあります。
胃腸がそれほど強くないこともあって、お腹がいっぱいになりすぎると移動も含めて旅がしんどくなるので、満腹にしないように旅の間は気をつけていますね。
食べたいものはいっぱいあるのだけれど、旅先だからこそ欲張らない。朝を軽く済ませておく、お腹いっぱいだったら1食抜くという選択肢もアリだと思っています」
2泊3日で、帰国の翌日から働ける行程がラク

コロナの流行でいっとき中断したものの、韓国にはここ数年でも20回以上行っているそう。次第に、定番の過ごし方ができてきたといいます。
なかしまさん:
「仕事の休みがそこまで取れないというのもありますし、韓国は2時間で行けることもあって、2泊3日がほとんど。1泊ということもあります。
いろいろ試した結果、少し割高でも羽田空港発・金浦空港着の飛行機を選ぶようになりました。短い日程でも、向こうでの滞在時間が長くできるので、時間に追われず余裕を持って過ごせるからです」
▲荷物は少なく。リュックひとつで行くことも。機内持ち込みにするので、入国も帰国もすんなりゲートを出られる。布製のトートバッグを数枚持っていけば、現地で身軽に過ごせて買い物も安心。
なかしまさん:
「初日は、お昼に羽田空港を出発して、15時くらいにソウルに到着します。その日の食事は軽めにホテルの近くに行ったり、コンビニやテイクアウトのキンパで済ませたり。どこで買っても失敗が少ないのは、ツナのキンパですね。
2日目は旅のメインの日。朝ごはんは軽くコーヒーとパンで済ませ、市場や器屋さんなどを巡り、お昼ごはんは食べたいものをしっかり食べます。午後は、カフェに必ず行くので、夜はお腹次第で軽く済ませることもあれば、友だちに会えたら待ち合わせしてごはんを食べることも。
最終日は、翌日から働けるように、21時までには羽田空港に着く便で帰ります。その場合、午後にはソウル市内から空港に向かうことになるので、あまりあちこち回らずに、百貨店などで食材を買って持ち帰ることが多いです」
大人のひとり旅ならではのいいところ

じつは韓国に行きはじめた頃から、ガイドブックを作りたいと思っていたそう。念願叶って、『ソウルのおいしいごはんとおやつ』を、2024年に刊行しました。
なかしまさん:
「本も出したし、韓国に行きたいという気持ちが薄れてしまうのかなと思っていましたが、全く変わりませんでした。最近はもうオタ活もしていないんですよ。それでも食べたいものもありますし、会いたい人もいますし、またすぐにでも旅に出たいですね」

なかしまさん:
「旅行に行くと、毎回わーっと気持ちが高まる瞬間があります。
うまく言えないんですけれど “自分は今韓国にいる” という思いがものすごく込みあげる瞬間が、旅の間のどこかで必ず1回押し寄せるんです。それがいつ来るかはわからなくて、1日目のこともあれば、最終日でもう帰るのに!っていうタイミングのときも(笑)。
旅をしているという実感を噛み締める時間は、何度味わっても、ものすごく感動します」
▲なかしまさんが韓国で買い付けた雑貨たちも「あまいみせ ミニ」に並んでいる。
ひとり旅を通じて、ふだんの生活や心境に何か変化はありましたか。
なかしまさん:
「韓国に限らずだと思うんですけれど、海外に行くと、日常や仕事と物理的に距離ができるので気持ちが軽くなります。
もちろん長い日程だったらパソコンも持っていきますし、携帯もあるのでメールは常に確認しているんですが、やっぱり気持ちの軽さは、日本にいる時とは全然違います。
家にいると目につくものが気になって動いてしまいますが、旅先だと掃除とかしなくていいし、ごはんを作らなきゃとか思わなくてよく、今だけを考えればいいんですよね。
短くても長くても、その期間だけはその場所に集中できるというか、リセットできる。いつもとは違う場所にひとりでいることが、精神的にも肉体的にもすごく自由でいられるのは、ひとり旅の効用だと思います」

ひとり旅をするたびに、「またがんばって稼いで、海外へ行きたいと思う!」となかしまさん。その言葉に、旅を通じて日々への活力を得ているのだな、となんだかこちらまで元気が湧いてきます。
いつ食べてもおいしくて、またすぐに食べたくなる、なかしまさんが作るおやつのようなお店ばかりが掲載されたなかしまさんのガイドブックを持って、ソウルの街を歩きたくなりました。
(おわり)
【写真】土田凌
もくじ
なかしま しほ
料理家、からだにやさしい素材で作るお菓子工房「foodmood(フードムード)」、おやつと雑貨の店「あまいみせ ミニ」店主。書籍、雑誌でのレシピ提案、ワークショップ、イベントのほか、映画、ドラマなどのフードコーディネートも手掛ける。映画や音楽などのカルチャーをきっかけに韓国に興味を持ち、たびたび訪れてはおいしい店を探し求めている。韓国在住の友人も多く、個人経営の知られざる名店に詳しい。
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@mini_kamakura