
美しく、どこか懐かしさも感じる刺繍デザイナーの青木和子(あおき・かずこ)さんの刺繍作品。
郊外の一軒家で夫と愛猫のポールと暮らしながら、庭のお手入れをしたり、刺繍の仕事をしたりという暮らしぶりも、あこがれます。
どんなふうに生きてきて、どんなことを考えておられるのか。ぜひともお伺いしたいと、ご自宅を訪ねました。前編では、20代で留学したスウェーデンで得たこと、専業主婦となった帰国後、そこから刺繍を仕事にするまでをお聞きしました。
後編では多忙だった40代を経て、家族との時間を大切にしているという現在についてお聞きします。
前編から読む野の花の刺繍。 "自分の場所" を探すまで。

スウェーデンで学んだ織りの技術と、子どもの頃から趣味だった刺繍で雑誌に応募し受賞したり、展示会をしたりと、刺繍を仕事にしようと模索した青木さん。
あるとき、思いついたのがクロスステッチでした。
青木さん:
「スウェーデンで、クロスステッチで野の花を刺繍した作品を見たことがあったんです。あとから調べたら、ゲルダ・ベングトソンというデンマーク刺繍で世界的に有名な方でした。
ああいう感じだったら私にもできるかもしれないと、すごく図々しく考えまして。方眼紙にスケッチを描いたデザイン画と、自分で刺した作品を出版社に持ち込みました。本を出させてください、って」

企画はすんなり通ったそう。
青木さん:
「1997年のことで、出版業界がピークを迎えていた時代です。手芸本もたくさん刊行されていましたが、パッチワークが全盛期で刺繍本は類書がなかったから、ちょうどよいと思ってもらえたのかな。
私自身、みんなと競争してハードルを超えていくのは無理なので、あんまり人のいなさそうなところでスタートしたいとも考えていました」
準備できていることに、チャンスはやってくるのかも。

ちょうど同時期に、NHKの手芸番組『おしゃれ工房』(『すてきにハンドメイド』の前身)のテキストの表紙にも採用されました。
青木さん:
「編集長が変わるタイミングで、新しい人を探していたようです。このくらいからですね。ようやく刺繍デザイナーとして仕事が成立するようになりました」

20代のときに留学したスウェーデンで、普通の暮らしのなかから創造的な仕事をしている人たちに憧れた青木さん。
しかしながら、40代、50代は仕事に追われていました。
青木さん:
「本当に仕事ばっかりしていたから、記憶がないんですよ(笑)。
刺繍ってすごく時間がかかるわりに、評価されにくくて。でも、私の後に続く人たちのためにも、経済的に自立できるようになりたいと思っていたんです。
本の制作と並行して、デパートで展示会をし、そのときに知り合った広告代理店の方と広告の仕事もするなど、いろいろなことをやりました」

青木さんの話を伺っていると、節目節目で、人との出会いやタイミングに恵まれている気がします。
青木さん:
「そうですね……。振り返ってみると、自分の中で準備できていることに、転機となるような大きな出来事がやってきたように思います。
雑誌の手芸コンテストで銅賞を受賞したり、NHKの『おしゃれ工房』の表紙のお仕事をいただいたり。それができる自分になっていたから、チャンスをつかむというと生々しいけれど、ご縁に恵まれたのかな、と。
その準備の根っこは、自分が好きなことですよね。仕事になる・ならないに関わらず、これをやりたいと考えて、ずっと手を動かしていたからこそ、チャンスが来たときに頑張ることができました。やっぱり急にはできなかったと思います」
60代でリフォームしたことが今の助けに

記憶がないほど多忙だった40代、50代を経て、60代以降は新しいフェーズに入った気がするとのこと。
青木さん:
「やっぱり家のリフォームが大きかったですね。
この家を建てたのは、1987年です。最初は50歳くらいのときにリフォームしようと思い、見積もりまで取ったんです。けれど、更年期で体調がよくなくて、うやむやになってしまいました。
気にはなっていたので、インテリアに詳しい編集者と知り合ったときに、どこかリフォーム会社を知らないか聞いたんです。そうしたら、オーダーキッチンやインテリアリフォームをする会社を紹介してくれました。話をよく聞いてくれるし、好みが似ていたのも良かったと思います。
すっきり、きれいになって気持ちがいいです。リフォームは何歳でもできるんだけれど、ショールームを回って決めたり、そういう気力体力があるうちにできてよかったな、と思っています」

白で統一されたインテリアは、作品同様にセンスの良さが溢れています。どうしたら、センスは磨けるのでしょうか。
青木さん:
「以前、写真を習っていたときに、先生に『どうしたらいい写真が撮れるようになりますか』って聞いたんです。『自分の気に入った写真があったら、どうやって撮っているのか、考えるんだよ』と教えてくれました。
その方は、何回も何回も良い写真を見ながら、考えたんですって。だから私も、いいなと思ったら『どこが素敵なんだろう?』『どうやっているのだろう?』と考えるようになりました。
色がいいなと思ったのか、それとも素材感がいいなと思ったのか。なんだろう、って考えるんです。
あとね、すっごい昔なんですけれど、イラストレーターの大橋歩さんが雑誌で同じような質問をされていて。 海外の雑誌を必ずひとつ定期購読してよく見ていると答えていたので、私も真似しています。
今は『ガーデンズイラストレイテッド』というガーデニングの雑誌を取っていますよ」
これからは家族との時間も大切に

ずっと仕事に夢中で、家族の時間をあんまりとれなかったという青木さん。娘さんが出産を控えていることもあり、これからは家族との時間を持ちたいと考えています。
青木さん:
「70歳を迎える少し前から、指の関節があまりよくなくて。お医者さまから、針仕事と庭仕事は控えるようにいわれました。
なのでちょうどいいタイミングなので、仕事の量を減らし、いまはやりたい仕事だけやるようにしています。
庭も、以前はバラをすごく植えていたんですけれど、あまりいじらず、季節の花が少し咲けばいいなという感じ」

今後については、どう考えておられるのでしょうか。
青木さん:
「そうね、自分の好きなことをやっていくのは前提で、なかなかゆっくり絵を描く時間も取れなかったので、これからもっと絵を描いていきたいです。そこから刺繍に結び付けられれば。
自由な立場で、刺繍をやってみたいなという気持ちがありますね」

20代でスウェーデンに留学し、普通の暮らしの中からものづくりをする姿勢にあこがれた青木さん。70代に入り、ようやくそのあこがれが実現できているようです。
息子さんが連れてくる3歳のお孫さんとは、テーブルセッティングなどを一緒にしていると聞き、情操教育かと思いきや、「いつかケーキを焼くくらいのことはしてもらおうと思って、戦略です(笑)」。
庭を愛で、家族との時間を大切に、暮らしの中から出てくる作品は、どういうものになるのでしょう。ますます楽しみになりました。
(おわり)
【写真】滝沢育絵
もくじ
青木和子
刺繍デザイナー。手をかけて育てた庭の花や、旅先で出会った野原や庭の花たちをスケッチしたものを、布地に刺繍糸で描いていく。絵画のような刺繍作品に、ファンが多い。園芸家としても熱心な勉強を続けている。
感想を送る